2014 Fiscal Year Annual Research Report
遺伝子操作の倫理における「リスク」-新優生学思想を手掛かりに-
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14J06655
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
赤塚 京子 京都大学, こころの未来研究センター, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | 遺伝子操作 / デザイナー・ベビー / 新優生学 / 生殖補助技術 / リスク / エンハンスメント / 生命倫理 |
Outline of Annual Research Achievements |
研究初年度となる26年度は、生殖細胞系列遺伝子操作の倫理について書かれた文献の精査に重点を置いた。その際、たとえば、N. AgarのLiberal Eugenicsや A. Buchanan他によるChance to Choiceなど、この分野で幾度となく引用されている文献を中心的なテキストに据えて、いかなる根拠に基づいてどのような操作が容認されているのか(または、制限や禁止をされているのか)に着目したうえで、遺伝子操作によって「望ましい」子どもをつくることを推奨する新優生学が前提としている「リスク」とはいかなるものであるのか考察した。 その結果、遺伝子操作擁護派と非擁護派において、遺伝子操作により発生しうる「リスク」として想定している事態が一見同様に見受けられても、その背景には異なった価値観が潜んでいることがわかってきた。 また、生殖の倫理に関する共同研究に協力者として携わってきたが、その中で、英米圏を中心に生命倫理学分野で最も注目されてきた論文の一つであるJulian Savulescuによって提唱された「生殖の善行原則」をめぐる議論の論点整理とレビューを行った。厳密には遺伝子操作の議論ではないが、新優生学思想と関連ある議論として、現在、併せて分析を進めている段階である。 かねてより採用者は、遺伝子操作の倫理に関する文献研究を行ってきたが、今回「リスク」という新たな視座から議論を見ることにより、本研究の最終的な到達目標―新優生学が前提としている危害原則の範囲を批判的に問い直し、遺伝子操作の倫理の捉え直しを試みる-に向けて前進できたと実感している。今年度の研究成果全てを業績化するまでには至らなかったが、こうした検討の一部は研究室紀要『いのちの未来』に掲載されることが決定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究初年度である今年度は、生殖細胞系列遺伝子への操作に関する文献の精査を行い、遺伝子操作の倫理における「リスク」の全体像を把握することが主な目標であったが、現時点ではほぼ計画通りに研究は進んでいると考えている。 採用者は今年度、各議論において、如何なる根拠により、どのような操作が認められているのか(あるいは制限、禁止されているのか)ということに着目しながら、「リスク」として懸念されているものを把握することに努めた。その結果、一見すると同様の「リスク」を懸念しているにもかかわらず、背景には異なる価値観が潜んでいることがわかってきた。次年度は学術誌や学会発表を通じて順次、研究成果を発信していくことを計画している。
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Strategy for Future Research Activity |
27年度は今年度の研究で明らかとなった「リスク」について、①どのような傾向がみられるのか(遺伝子操作の擁護派と非擁護派での差異はあるのか)、②それぞれの「リスク」が議論の中でどのように位置づけられているのか(たとえば、幾つかの「リスク」が想定される中で、より重要視されるものは何であり、その論理は何か)などを考察したうえで、新優生学思想が前提としている危害原則の批判的検討に進みたい。また、今年度の研究成果を引き続き学会や学術誌を通じて発表していきたい。
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Research Products
(2 results)