2014 Fiscal Year Annual Research Report
社会的なるものの生態学-イタリアの社会協同組合を軸とした統治と連帯の人類学的研究
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14J06944
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Research Institution | National Museum of Ethnology |
Principal Investigator |
松嶋 健 国立民族学博物館, 民族社会研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 文化人類学 / 国際情報交換 / イタリア / 社会協同組合 / 地域精神保健 / 障害者就労 / 移民 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、イタリアにおける社会協同組合の現状を全般的に把握することに重きをおいた。そのためにまず平成26年6月から3カ月間の現地調査において、首都ローマ近郊、イタリア北部、中部、南部それぞれの社会協同組合を訪問しインタビュー調査を実施した。さらに平成27年3月には2週間の短期現地調査を実施し、特に社会協同組合と公的な精神保健サービスとの連携についての補足調査を行なった。これらの調査から見えてきたのは、欧州におけるサード・セクターの希望の星とみなされてきた社会協同組合の苦境であった。とりわけ1991年の法律381号による社会協同組合の法制化以降、公共セクターとの連携、別の言葉で言えば「相互依存」を深めてきた社会協同組合にとって、近年のイタリアの経済危機は直接的に多大な影響を与えている。 各地の社会協同組合は、現在の苦境を独自の工夫によって乗り越えようとしているが、その方向性の違いは各社会協同組合を取り巻く地域の特性の差異によるところが大きいように思われる。解決への道筋は大きく三つの方向性に分類することができるが、こうした知見の一部については、平成27年3月に開催された京都大学地域研究統合情報センターの共同研究プロジェクト「南欧カトリシズムの変容と福祉ビジネスの展開に関する地域間比較」の研究会において、"The Role of Social Cooperatives in Mental Health Service in Italy"というタイトルで報告を行なった。社会協同組合を取り巻く状況の変化とそれに伴う社会協同組合自体のあり方の変化は、イタリアの中間集団の特徴を逆によく照らし出すものであり、現代における「社会的なるもの」の次元の考察にとって有益な、多くの具体的な材料を提供することになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は、ほぼ当初の研究実施計画どおりに研究を遂行することができた。現地での調査も様々な人の協力で多くの資料や情報が得られた。そして、こうして集めた材料について集中して検討する環境があるおかげで、次年度以降につながる研究の土台を構築することができたと考えている。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度の研究によって、イタリアの社会協同組合が置かれている現状や問題点について大まかな見取り図を得ることができた。同時に、各組合の方向性の違いも明確になってきたのだが、これは、公共機関がどれだけ積極的に協働しようとしているかも含め、それぞれの組合を取り巻く地域の特性の差によるところが大きいと考えられる。言い換えれば、地域における「社会的なるもの」という見えないつながりの次元がどのように耕されているかにかかっているということである。今後は、こうした見えないつながりの次元をさらに立体的に浮かび上がらせていくことが課題となるが、そのための方策として、次年度は調査地をしぼってよりきめ細やかなフィールドワークを実施する予定である。
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Research Products
(8 results)