2014 Fiscal Year Annual Research Report
ピエール・ブーレーズの音楽創作とその戦略的意図-《エクラ》の自作解釈を一例として
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14J07501
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Research Institution | Tokyo National University of Fine Arts and Music |
Principal Investigator |
須藤 まりな 東京藝術大学, 音楽研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 一次資料研究 / 音楽分析 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、ピエール・ブーレーズの音楽創作における戦略的意図――作曲者が自作の解釈をどのように提示し、また作品の受容プロセスにいかなる影響を及ぼしてきたのか――を研究することを目的とし、当初、その具体的な考察対象に1960年代の小編成オーケストラ作品《エクラ》とその拡大増補版《エクラ/ミュルティプル》を扱う予定でいた。本研究を遂行するうえで不可欠な作業が当該作品の「改訂」に関する考察であるが、昨年9月に行ったパウル・ザッハー財団(スイス、バーゼル)での一次資料の調査を経て、ブーレーズの音楽創作の実態を解明には、当初想定していた多層的な創作プロセスのみならず、異なる作品間の関係網を考慮することがきわめて重要であるとの考えに達した。これは、彼がしばしば過去に一度用いた音楽素材を別の作品で(異なる作曲システムのもとで)再び活用、あるいは同時期に作曲された複数の作品にまたがって同一素材の再考を行い、結果として異なる作品同士に潜在的なネットワークを張り巡らせているためである。 以上の点をふまえ、ブーレーズの音楽創作の本質を究明するのにより相応しい作品として、管弦楽とソプラノのための《プリ・スロン・プリ―マラルメの肖像》の5つの楽曲群を本研究の主要考察対象に変更する。マラルメの詩をめぐる1950年代のブーレーズの思想が結集された当作品は、作曲技法の観点からも、美学的観点からも20世紀音楽史の記念碑的な作品であるが、関連する一次資料の膨大さと作曲過程の複雑さゆえに未だ創作の全貌が充分に明らかにされていない。詳細な分析に基づきその全体像を描き出すなかで、ひとつのミクロな素材を徹底的に「演繹」させようとするブーレーズの音楽創作の本質に迫れるだろう。 現時点での研究実績としては、《プリ・スロン・プリ》の第1曲〈賜〉および第5曲〈墓〉の作曲システム、創作プロセスの大部分を解明しつつある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績の概要」で述べたとおり、研究の進展に伴って本研究の考察事例対象を変更する必要が生じたため、当初予定していた研究内容と実際に行った研究内容のあいだには多少の隔たりがある。だが、対象作品こそ異なるものの、一次資料に基づきブーレーズの複雑な作曲システムの詳細を明らかにしつつあるという点において、全体的な進捗状況はほぼ予定通りと言える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の基軸をなすのは、以下の二点である。第一は、昨年度に引き続き一次資料の調査・分析をもとに《プリ・スロン・プリ》創作の全貌を明らかにすること、第二は、そこから浮かび上がる複数の異なる作品間の素材連関の実態を、作曲技法の観点から仔細に分析することである。前者に関しては、とりわけ関連する一次資料がほぼ完全なかたちで入手可能な第4曲〈マラルメによる即興III〉を中心に、パウル・ザッハー財団での調査を継続して行う。後者においては、《プリ・スロン・プリ》とその素材元のひとつ《ル・マルトー・サン・メートル》(1952-55)を、主にセリー技法の違いに着目しつつ比較すると同時に、付随音楽《オレステイア》(1955)とフルート独奏のための《詩節》(1957)からの素材活用および《プリ・スロン・プリ》構成曲内部の相互的な引用関係の検証を行う。これらの分析作業に際しては、リズム細胞と音高セリーの結合システム、音域の固定性/可動性といった1950年代のブーレーズの創作上の諸問題を十分に考慮することが不可欠である。当作品における作曲実践が同時期に発表されたブーレーズ自身の理論といかなる関わりをもつのか、『現代音楽を考える Penser la musique aujourd'hui (1964)』等の作曲者による著作との対応関係を検討しつつ、「ひとつの音素材をどのように再考し再活用しているのか」というブーレーズの作曲法の本質につながる問いへの考察を進める。
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Research Products
(2 results)