2014 Fiscal Year Annual Research Report
X線自由電子レーザーを用いたコヒーレントX線溶液散乱法の開発
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14J07747
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井上 伊知郎 東京大学, 新領域創成科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
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Keywords | X線自由電子レーザー / X線散乱 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、「スペックルを利用した X 線溶液散乱法」というアイデアをもとに X 線自由電子レーザー(XFEL)、SACLA を用いて結晶化不要のタンパク質構造解析を実現することにある。「スペックルを用いた X 線溶液散乱法」とは、XFELのパルス光がタンパク質溶液に入射した際のスペックル状の散乱像を解析(方位角方向の散乱強度の相関を計算)して分子の構造情報を引き出す手法である。 今年度は、スペックル状の散乱像の測定に必要である高い空間コヒーレンスがSACLAからのX線パルスに備わっているかどうかを検証した。具体的には、大小大きさの異なる金コロイドからの散乱波の干渉縞のvisibilityを測定・解析することでXFELの空間コヒーレンスを測定する、generalized Young's experimentを考案した。この方法をSACLAからのX線パルスの診断に応用した結果、SACLAのX線パルスがほぼ完全な空間コヒーレンスを持っていることが明らかになった。このことは集光XFELを利用した場合でも、試料からのスペックル状の散乱像が測定出来ることを意味している。「スペックルを利用した X 線溶液散乱法」の実現には高強度のX線を利用する必要であるが、SACLAからのX線パルスの高い空間コヒーレンスを活かすと集光XFELを利用した場合でも、問題なく試料からのスペックル状の散乱像が測定できそうだという見通しが立ったと言える。 コヒーレンス計測の成果は論文としてまとめ、現在、投稿中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
XFELのビーム診断については順調に進展した。来年度予定しているスペックルを利用した X 線溶液散乱法の実現に向けて、SACLAからのX線パルスの質が問題にならないことを確認出来た。一方で、これまでの研究からXFELのパルス幅の中での試料へのX線ダメージが無視できないほど大きいことがわかってきた。このことは、適切な実験条件がスペックルを利用した X 線溶液散乱法の実現のために必要であることを意味している。当初予定していなかった、XFELによる試料へのダメージのメカニズムの解明が新たに必要であることが明らかになった。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず、高強度のXFELによる試料へのダメージ過程を調べる。具体的にはSACLAからフェムト秒の時間差をつけたダブルパルスのXFELを利用したX線X線ポンププローブ実験を行う。これは1つ目のパルスで試料にダメージを与え、様々な遅延時間をつけた2つ目のパルスによって試料へのX線ダメージの時間発展を調べるものである。集光したXFELを用いて、この方法をコロイド溶液やタンパク質溶液に応用することでXFELのパルス幅程度の時間スケールでのX線ダメージを実験によって調べる。 XFELによる試料へのX線ダメージ過程を解明した後に、本研究の最終目的であるX 線自由電子レーザー(XFEL)、SACLA を用いた結晶化不要のタンパク質構造解析の実現を目指す。具体的には、SACLAから試料へのX線ダメージを無視できる程度にパルス幅を短くしたX線パルスを出射する。そして出射したX線パルスを10 nm程度に集光し、 集光点にappoferitinというタンパク質の溶液を液体ジェットを利用して導入する。タンパク質からのスペックル状の散乱像を測定し、散乱像における方位角方向の散乱強度の相関からappoferitinの原子分解能の構造を決定する。得られた構造がX線結晶構造解析から決定された構造と一致していることを確認して、スペックルを利用した X 線溶液散乱法の妥当性を示す。
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Research Products
(2 results)