2014 Fiscal Year Annual Research Report
詳細つり合い条件を用いないマルコフ連鎖モンテカルロ法の理論的研究
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14J07868
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
酒井 佑士 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 統計力学 / モンテカルロ法 / 詳細つり合い |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は詳細つり合い条件を破るマルコフ連鎖モンテカルロ法として, ねじれ詳細つりあい条件を用いる手法に着目し, その性能の理論的評価を試みた. これまで本手法は主にイジングスピン系に対して適用され, その性能が数値的・解析的に評価されてきた. 今年度は大きく分けて2つの研究を行なった. ひとつは, 本手法の性能をよりよく理解することを目指して, もっとも単純な模型である1次元ランダムウォークへ本手法を適用し, その際の性能を数値的・解析的に評価した. 具体的には, 本手法に対応する遷移確率行列を手計算で厳密に対角化し, 固有値・固有ベクトルをすべて求めた. その上で, 緩和時間や漸近分散を評価し, 本手法によって従来のアルゴリズムよりも性能が向上する条件を明らかにした. 特にある条件下では性能を質的に改善できることを解析的に示した. 先行研究では類似した手法に対して同様の改善が見られることが報告されていたが, 遷移確率行列の固有値を直接求めて改善すること示した点で新しいといえる. もうひとつは, ねじれ詳細つり合い条件の手法をシミュレーテッドテンパリング(焼き戻し法)に応用することを試みた. 焼き戻し法はこれまで取り組んできた1次元ランダムウォークと類似した数理構造を持つ拡張アンサンブル法であり, ねじれ詳細つり合い条件を用いることによって同様に性能を質的に改善できるのではないかと考えた. 実際に1次元イジング模型に対してこのアイデアを適用し, 上記の素朴な期待が実現していることを示す結果を得た. これは本手法を用いて詳細つり合い条件を破ることによって, より効率的なサンプリングが可能になることを示唆しており, 今後の実用化に向けての意義は大きい.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究計画に掲げた「ねじれ詳細つり合い条件の枠組みの中での, マルコフ連鎖モンテカルロ法の性能評価」を着実に遂行している. これまでの類似の先行研究では具体的な統計力学模型に対して専ら数値的な性能評価が行われてきた. 最も単純な模型ではあるものの, その性能を解析的に評価できたことの意義は大きく, 今後の研究の進展に寄与するものである. また, 上の結果から着想を得て, 従来の拡張アンサンブル法に詳細つり合い条件の破れを取り入れた新しい手法を開発した. 以上のとおり, 本研究課題は順調に進展しているといえる.
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Strategy for Future Research Activity |
詳細つり合い条件の破れを取り入れた拡張アンサンブル法の性能評価を進めていく予定である. 特に従来の手法を相転移のある統計力学模型に適用した際に典型的に現れる「遅い緩和の問題」が改善できるかどうかに注目する. また, 遷移確率行列の非対角成分と漸近分散の関係について述べた Peskun の定理が, 詳細つり合い条件の枠組みを超えてどこまで一般的に成り立つのかを検討することも考えている. 具体的には, ねじれ詳細つり合い条件を課した場合への拡張を予定している.
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Research Products
(6 results)