2014 Fiscal Year Annual Research Report
遅延方程式による構造化個体群モデルの開発と数理解析及び疫学、細胞生物学への応用
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14J08448
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中田 行彦 東京大学, 大学院数理科学研究科, 特別研究員(PD)
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Keywords | 遅延方程式 / 無限次元力学系 / 非線形微分方程式 / 感染症モデル / 細胞増殖モデル / 安定性解析 / 大域挙動解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
1)個体の免疫低下を伴う感染伝搬ダイナミクスの理解は、麻疹やマイコプラズマなどの小児感染症疫学への応用において重要であり、数理モデルも自然と複雑な非線形システムとして定式化される。研究代表者は、遅延方程式により定式化されたSIRS型感染症モデルの安定性や大域挙動についてレビュー論文として纏めた(雑誌論文1)。感染性の時間変動及び一般的な感染期間の分布を記述できる積分方程式による感染症モデルを用い、一般的な立場から以前まで得られてきた安定性結果を導出した。また特性方程式の解析により、感染平衡点が局所漸近安定となるための新たな十分条件を与えた。数理解析を通して、個体の感染性変化及び感染期間の分布が系の不安定性に影響を与える可能性が示唆された。 2)複数遅れをもつ微分方程式は、その解析が一般に困難であり、漸近挙動や平衡解の安定性に関する理解は限られたものとなっている。報告者は、二つ遅れをもつロジスティック方程式の解の有界性や爆発また平衡点の局所安定性について調べた。特に、特性方程式が正の実根をもつための必要十分条件を導出し、平衡点が不安定となるための十分条件を与えた。また、分岐が起きるパラメータ条件を視覚化することで、Hopf-Hopf分岐が一般的に起きることを明らかにし、よく知られている、一つ遅れをもつ微分方程式の挙動と大きく異なる性質をもつことを示した。また関連する差分方程式の安定性についても研究し、特性方程式として得られる高次の代数方程式が安定となる条件を調べ、3Dプリンタを活用し係数条件を具体化した。本研究により、過去に得られてきた安定性条件を大きく改善しており、準備論文をRIMS講究録として報告している(雑誌論文2) 3)細胞増殖系において休止期へ移行する細胞やその再分裂は、系の恒常性維持に大きく関連していると考えられている。研究代表者は再生方程式と遅延微分方程式を用いて、静止細胞が与える系の安定性への定性的な影響を調べた。導出される特性方程式の性質について詳細な解析を与え、非線形モデルが不安定となる生物学的メカニズムについて検討を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
積分方程式及び遅延微分方程式によってある細胞増殖系のダイナミクスを定式化し、モデル方程式から得られたある種の超越方程式の解析を行い、解析結果を非線形モデルへと応用した。本結果を纏めた論文が現在投稿されている。また遅延方程式を用いた感染症モデル研究は、再感染による周期的流行の理解を問題意識としながら、数学理論の構築及び疫学への応用それぞれが進展している。また複数遅れをもつ非線形方程式の研究については一定の成果を得ており、来年度前半を目処に論文完成を目指している。
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Strategy for Future Research Activity |
現在、二つ遅れをもつロジスティック方程式の挙動解析に関する論文を執筆しており、来年度前期を目処に論文を完成させる予定である。また再感染を考慮した感染症数理モデルの研究に関しては新たな結果が少しずつ得られており、来年度を通して研究を推進する予定である。特に遅延方程式の周期解の存在性について注力し、疫学への応用や解釈が可能な数学理論の構築を目指したい。一方研究予定にあるメタポピュレーション型感染症モデルの研究では、その方程式の一般性から、少なくとも安定性解析のための十分な数学理論が整備されていないことを本年度理解した。生物的な解釈の導出を目標に見据えるのではなく、一般的な無限次元の積分方程式の解の性質や一般理論をしっかりと調べ、モデル定式化を改めて再検討することで、モデル方程式の数理解析を可能なものとしたい。
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