2014 Fiscal Year Annual Research Report
1920‐1930年代における日本の探偵小説ジャンルの研究
Project/Area Number |
14J08618
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井川 理 東京大学, 総合文化研究科, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | 探偵小説 / 探偵小説家 / ジャンル論 / メディア論 / 犯罪報道 / 大衆文化 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は、1920‐30年代における日本の探偵小説ジャンルの社会的な位相を多角的に考察するための準備作業に従事した。具体的な作業の内容・進行状況・成果は以下の通りである。 まず、全国紙の社会面を主な調査対象として探偵小説・探偵小説家に言及する犯罪報道記事の収集・整理を行った。調査の結果、1930年前後の犯罪報道において、探偵小説が現実に生起した犯罪の誘発要因として批判的に言及されるだけでなく、探偵小説家が警察・司法関係者らとともに犯罪の専門家として一定の社会的地位を付与されもするという、同時代の探偵小説ジャンルが置かれた両義的な位相を確認することができた。 次に、これまで全集等に未収録であった浜尾四郎の小説・評論・エッセイ・座談会等の記事を収集し、その資料をもとにした論文「拮抗する法・新聞メディア・探偵小説―浜尾四郎『殺人鬼』における「本格」のゆらぎ―」(『言語態』、第14号、2015年3月)を発表した。論文では、ジャーナリズムにおいて「浜尾四郎」という固有名に付される肩書の表記ゆれが確認できることから、現実に生起した犯罪を語る主体の正当性をめぐって「法律家」と「探偵小説家」という肩書が拮抗し合う様相を析出した。また、そのような自身の肩書の階層性への認識が、『殺人鬼』執筆の動機となっていたことを明らかにした。 さらに、福岡県への出張を行い、夢野久作関連資料の閲覧・複写作業を行った。そこでは夢野久作の自筆の草稿・文学関係者との書簡等を閲覧し、主要な作品の完成稿との異同や出版の経緯を確認するとともに、後年の探偵小説テクストの原型となったテクスト群の閲覧・複写を行うことができた。 現在は、上記の作業によって得られた犯罪をめぐるジャーナリズムにおける探偵小説・探偵小説家の表象、および、各探偵小説家のテクストに関する研究発表、論文を準備中である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の計画通りに各資料の収集・整理作業、および、テクストの分析作業を進行させることができた。また、上記の論文執筆作業を通じて、本研究の目的である1920‐30年代における日本の探偵小説ジャンルの社会的な位相を多角的に考察するために重要である、探偵小説ジャンルが置かれた環境的側面と、個別のテクストとの往還運動を捉える視座を得ることができた。
|
Strategy for Future Research Activity |
今年度は、日本の探偵小説ジャンルの社会的位相について、1920-30年代の犯罪をめぐるジャーナリズムとの関わりを中心に調査したが、本研究を推進していくためには、より広範な言説状況を視野に入れ検討していく必要がある。そのため、次年度以降には、これまでの作業を継続していくとともに、調査対象を拡大し、新聞・雑誌メディアにおける探偵小説の広告言説や全集出版等といった共時的な側面、および、1910年前後のジゴマ現象を中心とした通時的な側面から、戦前期における探偵小説のジャンル・イメージが複層的なメディアとの関わりからいかに構築されていったかを多角的に検討していく。また、これらの作業と並行して、江戸川乱歩、夢野久作、浜尾四郎、甲賀三郎、小栗虫太郎、久生十蘭といった作家らの小説テクスト、および、探偵小説文壇内外で発表された批評テクストを、ジャンルが置かれた環境的側面との相関関係を視野に入れながら分析していくことで、研究計画がより進展していくと考えられる。
|
Research Products
(1 results)