2014 Fiscal Year Annual Research Report
江戸時代における林政の展開と森林資源の管理・経営システムに関する研究
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14J08649
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Research Institution | Tokyo University of Agriculture and Technology |
Principal Investigator |
芳賀 和樹 東京農工大学, 大学院農学研究院, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 江戸時代 / 林政史 / 環境史 / 農業史 / 災害史 / 水源涵養林 / 海岸砂防林 / 秋田藩 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、江戸時代における森林政策の歴史的展開とその特質を、「森林資源の管理・経営システム」に着目して構造的に解明することである。本年度は、特に領主層が森林資源を主体的に保護・育成した理念・方法を、秋田藩の1.水源涵養林と2.海岸砂防林をとりあげて調査・検討した。その成果は以下の通りである。 1.水源涵養林の保護・育成:日本は降水量は多いものの、降水の大部分が梅雨・台風・降雪の時期に偏るうえ、河川が急勾配で水がすぐに海へ注いでしまう。そこで、洪水・渇水を防止し、河川の水量を一定に保つ水源涵養林の働きが重要となる。特に降雪量の多い秋田藩の場合は、融雪水との関係も深い。水源涵養林が適切に管理されていれば、養分が豊富に溶け込んだ融雪水を水田稲作に活用できるからである。このため、同藩では「水野目林」と呼ばれる水源涵養林が江戸前期から設定され、厳しく保護された。同藩が作成した「御札山略図」(秋田県公文書館・東北森林管理局蔵)等を分析すると、文政期(1818~30)頃までの水野目林の設定件数は約300で、下流に水田を擁する地域で多く設定されたことがわかる。また、「木山方以来覚」(国立公文書館つくば分館蔵)・「林取立役定書被仰渡控」(秋田県公文書館蔵)や、秋田郡荒瀬村の肝煎を勤めた湊家文書(北秋田市湊榮興氏蔵)等によると、水野目林は主に「御札山」という形式で設定され、山林を「田地根元」と捉える藩の理念と村々の要望とが結びついて、保護・育成されたと考えられる。 2.海岸砂防林の造成:本年度は史料の収集に力点を置いた。具体的には、江戸後期に海岸砂防林造成に尽力した役人である賀藤清右衛門家の史料(国立公文書館つくば分館蔵)と、栗田定之丞の関係文書(秋田市新屋日吉神社蔵)を調査・撮影した。 こうして得られた知見は、林政史だけでなく、環境史や農業史・災害史研究にも寄与しうると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実施計画に基づき、主に秋田藩における水野目林の分布や設定年代、管理・経営に関わる理念・方法について検討し、上記のような知見を得ることができた。これらの成果は、秋田大学史学会大会で口頭発表したほか、論文等にまとめて広く公表した。また、日吉神社(秋田市新屋)所蔵の海岸砂防林に関する貴重な史料についても調査を進め、次年度に向けて、その内容のデータベース化に着手した。 さらに、こうした研究の過程で、本課題に関連する史料が、秋田県藤里町・北秋田市等にも伝来していることを知った。これらのなかには、散逸のおそれのある史料もあったため、自治体職員や地元研究者、地域住民等の協力を得て、その所在や内容を調査し、一部はデジタルデータとして収集した。 このような調査・分析の状況を踏まえると、本研究課題はおおむね順調に進展していると思われる。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、秋田藩沿岸部における砂防林の造成について、上記の賀藤清右衛門家文書(国立公文書館つくば分館蔵)や栗田定之丞関係文書(秋田市新屋日吉神社蔵)等を活用しながら検討する。その際、特に周辺村々の暮らしや、砂地における植林の工夫が窺える内容(樹種の選択等)に着目して、海岸砂防林の造成理念や技術的特質を明らかにする。これらの成果は、学会報告や論文執筆によって公表する。 また、本研究をより推進させるため、引き続き秋田藩を主要な検討対象としつつも、さらに1.森林資源の管理・経営の実務を担ったと考えられる「御山守」という下級役人の役割と、2.林政に関する諸記録の編纂に着目したい。このうち前者については、国立公文書館つくば分館が所蔵する同藩の林政関係史料や、秋田県藤里町・北秋田市等に伝来する地方文書等を調査し、御山守に関する記事をデータベース化する。後者の諸記録編纂は、長期的な視野から森林資源を管理・経営するために重要な施策であったと考えられる。そこで、東北森林管理局や秋田県公文書館、国立公文書館つくば分館等に所蔵されている関係史料を収集し、アーカイブズ学の知見にも学びながら分析を加えたい。
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Research Products
(3 results)