2014 Fiscal Year Annual Research Report
難水溶性薬物の経口吸収性改善に寄与する自己組織性短鎖ペプチドの新規開発
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14J08905
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Research Institution | University of Miyazaki |
Principal Investigator |
稲田 飛鳥 宮崎大学, 農学工学総合研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | パクリタキセル / ペプチド / 難水溶性薬物 / 複合体 / 水溶性 / 分散性 / コロイド |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、カゼインを加水分解して得られるペプチド混合物から難水溶性薬物であるパクリタキセルと相互作用して水溶化に寄与するペプチドを見出し、その構造を同定するとともにパクリタキセルの水分散性改善について検討した。その結果、ペプチド混合物と複合化することによりパクリタキセルの水分散性が向上することが示された。ペプチド混合物を、硫安沈殿と限外ろ過膜を組み合わせて分画してパクリタキセルの分散剤として用いたところ、疎水性がより高く、かつ分子量が大きいペプチドを含む画分ほど、パクリタキセルの水分散性の向上が確認された。さらに、各画分に含まれる主要なペプチドのアミノ酸配列を同定し、これらのペプチドのGRAVYスコア(親水性/疎水性指標)を計算したところ、パクリタキセルの分散性を高める画分に含まれるペプチドは疎水的であるのに対し、分散性への効果が低い画分に含まれるペプチドはより親水的であることが明らかとなった。これらの結果より、相対的に疎水性のペプチドがパクリタキセルの分散性を高めるのに効果的であることを示した。 パクリタキセルの・ペプチド複合体のみかけの溶解度は、パクリタキセル単体より高く、調製時のペプチド濃度が増加するほど増大し、pHに依存しないことが示された。他方、ペプチドおよびパクリタキセル・ペプチド複合体の等電点はともに4.0-4.5付近であり、水溶液中での粒子径は数百ナノメートルのコロイド粒子として分散していることが確認された。 他方、これらのペプチドを用いたインドメタシン、イブプロフェン、プレドニゾロンの水溶性改善についても、薬物の解離性官能基の有無の観点から体系的に検討した。その結果、これらの薬物の複合体の溶解度はペプチドと複合化することで増大し、複合体のpH依存性は難水溶性薬物自体のpH依存性に大きく依存すること、複合体は限外ろ過膜を透過できるほど小さいことを見出した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
カゼイン酵素分解物として得た消化ペプチド混合物の中から、パクリタキセルの難水溶性薬物の分散性を高めるペプチド画分を特定し、質量分析によって含まれるペプチドの同定を行うことに成功した。このペプチド画分は各種の難水溶性薬物・生理活性物質の水溶性・水分散性の改善に寄与することが明らかになっており、応用が期待される。さらにこれらのペプチドによるイブプロフェン、プレゾニドロン等の難水溶性薬物の水溶性改善についても検討しており、これらの研究成果は当初計画の期待通りのものであると判断する。本年度の受理論文は0であったが、1報について英文学術誌に投稿審査中であり、さらにもう1報の学術論文を投稿準備中であることから次年度はこれまでの研究成果の発表が見込まれる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、カゼインを酵素消化して得られたペプチド群から難水溶性薬物の水溶性・水分散性改善に寄与するペプチド画分を見いだし、有効なペプチドの一部を同定した。次年度は、本年度のトップダウン式のペプチド調製法と平行して、ボトムアップ式のアプローチを試みる。 アミノ酸を5から12残基程度結合させた短鎖ペプチドを合成し、難水溶性薬物の水溶化に用いる。非極性のアミノ酸を3から6残基を結合させたペプチドを合成し(疎水性部位)、次に極性アミノ酸を2から6残基をアミド結合させたペプチドを導入する(親水性部位)。これら疎水性領域と親水性領域を1分子内に有した両親媒性の短鎖ペプチドを合成する。この両親媒性短鎖ペプチドを難水溶性薬物と混合して複合体とすることで、ミセル様の自己集合体となり、難水溶性薬物の水溶液への溶解度が大幅に向上すると期待される。得られた両親媒性短鎖ペプチドは、疎水性カラムを用いて精製し、NMRとMALDI-TOF MSにて同定する。 上記のように得られた短鎖ペプチドを難水溶性薬物と複合化して、水溶液における薬物の溶解度が向上するかをブランク試料、および対照試料と比較して評価する。ミセル等の自己組織体の形成について動的光散乱法による粒子径測定を行う。さらに、難水溶性薬物の経口吸収性を評価するため、腸管上皮細胞のモデルとしてCaco-2細胞を用いた膜透過試験を行い、ペプチドとの複合化によって薬物の吸収性が高められるかを評価する。 上記の各実験から得られる知見に基づいて、難水溶性薬物と相互作用してその水溶性あるいは水分散性を高める短鎖ペプチドに求められる構造的要件を見出す。
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Research Products
(6 results)