2014 Fiscal Year Annual Research Report
19世紀のアジアの銀吸収と貿易成長-国際自由港シンガポールの通貨システム-
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14J09047
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Research Institution | National Graduate Institute for Policy Studies |
Principal Investigator |
小林 篤史 政策研究大学院大学, 政策研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 世界貿易 / 国際通貨システム / シンガポール |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、19世紀における西欧とアジア間の遠隔地貿易、そしてアジア域内貿易を支えた国際通貨システムの発展について考察することである。特に、国際中継港シンガポールが、アジア域内の銀流通と貿易成長に果たした先駆的役割に焦点を絞る。これによって、国際金本位制の優位という歴史認識のみでは理解しきれなかった、アジアの自律的な貿易成長をも牽引した、金と銀を軸とする19世紀の国際通貨システムの全体像の解明が目指される。 上記の課題を達成するために、まずは国際的に貨幣の流通規模が増加したとされる1840年代から1870年代初頭にかけての、アジアにおける銀流通を補足する必要があった。そこで、イギリスのブリティッシュ・ライブラリーに所蔵されているインドの貿易統計、そしてイギリス公文書館に所蔵されている東南アジア・海峡植民地の貿易統計から銀の輸出入を捕捉した結果、1850年代以降に両地域で銀の流通規模が拡大したことが判明した。また同時期に、インドと海峡植民地の貿易についても増加傾向にあったことが分かった。 こうしたアジアにおける銀流通の拡大と貿易成長のリンクを探るべく、19世紀中葉のイギリス系国際銀行のアジアにおける金融活動を検証する必要があった。そこで、ロンドンの香港上海銀行アーカイブに所蔵されている、マーカンタイル銀行の1850年代から70年代の帳簿を収集した。この資料の整理と分析は、次年度にかけて継続して行っていく。 また、研究成果の一部を社会経済史学会の全国大会で報告した。そこでは19世紀中葉の東南アジアにおいて、シンガポールを中心とした銀流通の拡大があったことを論じ、聴衆からはインドや中国との比較から議論を展開することの重要性を指摘されるなど、今後の研究につながるコメントを得ることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定通り、資料の収集と学会報告を行った。 本年度は資料収集のためイギリスへの渡航を二度遂行し、19世紀中葉のインドの貿易統計と東南アジアの貿易統計を収集したことで、本研究の根幹となる数量的捕捉の準備が整った。さらにそれら資料の整理と分析も進め、1850年代以降のインドと東南アジアにおいては、銀の流通規模が拡大していたという実態が捉えられた。これによって、19世紀におけるアジアの銀流通を基盤とした国際通貨システムの検討という、本研究課題の実証性をより高めることができた。 そして、こうした成果の一部を学会の全国大会で報告したことにより、アジア経済史における本研究課題の意義についても、一層の理解を深めることができた。 以上の実績から、本年度は予定通りに研究が進展したといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は19世紀中葉のアジアにおける銀流通の実態と、貿易成長の動向といったマクロな動態を統計的に捕捉した。そこで今後は銀流通の担い手を明らかにし、さらにそれが貿易成長にどのような影響を与えたのかというミクロな側面の分析を進めていく。 具体的には、19世紀のアジアにおいて銀貨の地域間流通を担い、商人たちに貿易金融を提供していたイギリス系国際銀行の活動に分析を加える。基礎的な資料は本年度に収集したマーカンタイル銀行の帳簿である。これの整理と分析を進めていく。 また、アジアにおける銀流通は、アジアと西欧の間、またはアジア地域内での貿易の支払いとして流通していた。そのため、その流通は為替レートの動向と密接に関係するといえる。そこで今後は、19世紀のアジア各地の為替レートに関する資料の収集を進め、そこから銀流通と貿易成長とのリンクを明らかにしていく。 また、すでに統計的に把握した19世紀中葉のインドと東南アジアの貨幣流通規模の増大について、投稿論文を執筆することで議論の整理と公表を進めていく。
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Research Products
(5 results)