2014 Fiscal Year Annual Research Report
現代ドイツにおける移民のドイツ語の言語意識の変容と言語使用の変遷
Project/Area Number |
14J10205
|
Research Institution | Gakushuin University |
Principal Investigator |
田中 翔太 学習院大学, 文学部, 特別研究員(DC2)
|
Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2016-03-31
|
Keywords | ドイツ語学 / 社会言語学 / 移民の言語 / トルコ系移民 / 言語意識 / フィールドワーク / アンケート調査 / 統計解析 |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年度は研究課題のうち、現代ドイツにおけるトルコ系移民の「言語意識の変容」にテーマを絞り、研究を進めた。トルコ系移民の言語使用に関する調査は、林徹(2001, 2003, 2008)が2000年12月18日(月)から2001年1月9日(火)にかけて、ベルリンのクロイツベルク地区にある総合学校においてアンケートを実施した。林調査からおよそ13年経った現在、トルコ系移民の若者の言語意識にどのような変化が見られるか。トルコ系移民の若者の言語意識の変容を明らかにするために、研究代表者は次の2つの問題提起を立てた: (A)約13年前に行われた林調査と比較して、トルコ系移民の若者の言語使用に関して変化がみられるか。 (B)もしトルコ系移民の若者の言語使用に変化が見られた場合、それはどういったコミュニケーションの相手、あるいは状況においてか。また、どのような言語意識が働いているため、言語使用に変化が生じたと推論できるか。 研究代表者は今回、ドイツ全5都市で50人のトルコ系移民の若者を対象としたアンケート調査を実施した。本調査では、林調査よりも詳細な質問事項を設けることで、それぞれの質問項目間の相関性を見出すことを目指した。さらに本調査で扱う多くの数値の裏付けのため、統計解析ソフト"R"を使用し、精密な分析を試みた。 結論として、トルコ系移民の若者が13年前と比較し、よりドイツ語を使用するようになったと言える。その理由として考えられるのは、第一にトルコ系移民の女性の教育改善、次にコミュニケーションの状況の公私性、そしてコミュニケーションの相手との心的距離である。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
研究代表者は2014年度の研究について、期待以上の進展をしたと考える。その理由は、主に次の2点である。 第一に、研究代表がドイツで実施したアンケート調査を、統計解析ソフト"R"を使用して精密に分析した点である。本調査の実施は、13年前に林がドイツでトルコ系移民の若者を対象に実施したアンケート調査の結果と比較することが、主な目的であった。しかしただパーセンテージを比較するのではなく、本調査では統計解析ソフトを使用し、さらに精密な分析を試みた。それにより、ただのパーセンテージの比較では見えてこない、質問項目間の相関性を見出すことができた。 第二に、アンケートの分析内容の積極的な発表である。本調査の結果については、まずはドイツおよび日本の学会で、一度ずつ口頭発表した。それぞれの学会で参加者から分析方法について詳細なアドバイスをいただくことができ、さらなる分析へと繋げることができた。そしてその結果については、2014年度末に学習院大学ドイツ文学会刊行の『研究論集』で論文として発表している。 以上の点から、研究代表者の研究内容は、2014年度に期待以上に進展したと言える。
|
Strategy for Future Research Activity |
本年度はさらなる多面的アプローチを行う予定である。特に、(a)ドイツにおけるトルコ系移民の民族誌(エスノグラフィー)および(b)トルコ系移民を対象としたインタビュー:質的調査に特化して研究を進める。 (a)を知るために、グローバルな視点で移民の言語現象を観察する必要があると研究代表者は考える。そのため、まずはドイツ以外の国における移民の言語現象を観察し、ドイツにおけるトルコ系移民のそれと比較する。この比較を通して、各国の移民が所有する言語意識の相関性、あるいは相違性が明らかになると考えている。 次に、(b)の実施についてである。インタビューの実施に先立ち、まずはインタビューのプリテストを行うことを予定している。プリテストを行うために、まずはある人物に予備調査としてインタビューを行う。インタビューの際は参与型を取り、被験者と1対1の対面式で行う予定である。さらにインタビューは質問を通してではなく、自然な会話を通して導き出すものとする。次に社会言語学の分野で似た研究を行っている複数の人物で、作業グループを作成する。そしてインタビューの内容を、作業グループのメンバーで評価する。 研究代表者はこのプリテストを行うために、2015年8月にドイツへの渡航を考えている。渡航中は、ドレスデン工科大学のJoachim Scharloth教授とインタビューの方法論について相談をし、インタビューのプリテストの実施と、作業グループでの分析も行う予定である。
|
Research Products
(3 results)