2015 Fiscal Year Annual Research Report
リミックスされる〈記憶〉-中世連歌における過去再利用意識の深化とその芸術学的意義
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14J10267
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Research Institution | International Research Center for Japanese Studies |
Principal Investigator |
土田 耕督 国際日本文化研究センター, 研究部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 藤原為家 / 詠歌一躰(詠歌一体) / めづらし / 古歌をとる(古歌を取る) / 古歌取 / 本歌取 / 花の下連歌 / 付合 |
Outline of Annual Research Achievements |
和歌において古歌再利用意識が〈転回〉した、いわゆる「新古今時代」以降の時期と、中世連歌の黎明期とが重なっているのは、決して偶然ではない。新古今時代を代表する歌人である藤原定家(1162―1241)の跡を承けた藤原為家(1198―1275)は、その歌論書『詠歌一体』において、「古歌をとる事」に表現論的価値を見出した。これは、新古今時代において様々なかたちで試みられた古歌再利用の諸相の内、古歌に用いられている詞を摂取しつつ、それを古歌の主題・表出内容とは異なる内容に適用するものである。それによって、たとえ常套的な内容であっても、詞の配列やその聴覚的印象の「めづらし」さが達成される。和歌における古歌再利用意識の、このような表現理念は、為家も盛んに実践した連歌に、同時並行的に浸透することになる。 従来の研究において、13世紀の半ばにあたかも突然あらわれたかのように捉えられている、いわゆる「花の下」の連歌は、このような時代的理念を共有する歌人たちによって立ち上げられたものである。本年度の研究は、現存する13世紀半ばから14世紀半ばまでの連歌の実践に、古歌再利用意識という観点から注釈を施すことによって、以上の事態を実証するものであった。 しかしながら、以上の内容を公に問うことは、未だできていない。本年度に公開された成果としては、ポスト新古今時代において前面に打ち出されることになった「めづらし」という表現理念と、それを達成するための「古歌をとる」という方法が、近世にまで貫入する〈中世〉の和歌の持続原理として働いていたことを示した、広島芸術学会の第29回大会での研究発表にとどまっている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
4: Progress in research has been delayed.
Reason
従来の研究計画において、本年度は、14世紀末から15世紀半ばまでの連歌に焦点を当てるものとなるはずであった。しかし現段階では、その中世連歌の時代的考察の進行計画から、大幅に遅れる結果となっている。 その主な理由として、計画した当初は着目していなかった「めづらし」という和歌的理念の重要性が抽出されたことが挙げられる。古歌の再利用意識が連歌に浸透し、作句に応用される時、表現理念としての「めづらし」という要素が、付句の価値判断に大きく作用している。この要素に鑑みて、本年度の研究は、中世連歌の実践に対する分析を、同時代的に進行する和歌の状況とより正確にシンクロさせる視点を獲得したという意義を持つものといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
従来の連歌研究においては、連歌史上最初のアンソロジーである『菟玖波集』の時代(14世紀後半)の連歌を、中世連歌興隆の発端としてとらえる傾向が強かった。それ以前、すなわち13世紀後半から14世紀前半の連歌は、表現方法・意識という観点からはほとんど論じられていない。確かに、この時期の連歌を考えるうえでは、実作・理論ともにほとんど残っていないため、考察素材が量的に不足しているという問題はある。しかし、断片的ではあるが伝存している資料への注釈さえも、手つかずのまま残っているといってよい。 今後の研究推進の見通しとしては、考察の時代的進捗を急ぐのではなく、黎明期の連歌作品について詳しく分析したうえで、それを土台とするかたちで、14世紀半ば以後の連歌の実践・理論を跡づけるという方策を採りたい。 黎明期の連歌が、今日「純正」といわれるその後の連歌のもつ表現意識を既に充分にあらわしていることを踏まえつつ、その後、古歌の再利用意識が連歌へと浸透していった様相を記述することを試みる。また併せて、古歌再利用の基盤である各歌人・連歌師たちの〈記憶〉の形成・編集が、相互に影響を及ぼし合いながら進展していったことを、13世紀後半からの理念を照射することで、当初計画していたよりも明確なかたちで解明したい。
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