2014 Fiscal Year Annual Research Report
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14J10311
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
井口 尚樹 東京大学, 人文社会系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 就職活動 / 社会学 / アイデンティティ / トランジション / 社会問題 / 地域間格差 |
Outline of Annual Research Achievements |
就職活動中の学生が抱えている負担感についてのデータを得るため、計46名の学生へのインタビュー調査を行った。対象者を選ぶにあたっては、首都圏と地方、また入学難易度が高い大学と低い大学両方の学生を対象とする理論的サンプリングを行った。さらに日本のあり方を相対化するため、イギリスの大学の卒業生へのインタビューを行った。 収集されたデータをもとに、学生の負担を経済的負担、時間的負担、心理的負担に分節化した。経済的負担は、特に地方の学生により訴えられた。説明会および選考を受験するためには、各地域の大都市までの移動が必要となる。これに伴う経済的負担は、学生の就職先についての希望を限定させる効果を持っていた。時間的負担は、応募する企業数の多さと関連する。過去の統計資料の検討から、学生1人あたりの選考を受けた企業数は、1990年代初めの5社程度から2000年代初めの20社程度へと大きく増加していることが明らかになった。精神的負担は、主に内定が決まらない自分についての否定的自己認識、あるいはその予期にまつわる焦りによりもたらされていた。就職活動は、経済的な収入源を得るためのもののみならず、自己像を賭けたものであり、選考で不採用となった学生は活動を継続する上で、様々なアイデンティティ管理を行っていることが明らかにされた。 以上のデータ収集と分析により、これまで指摘されてきたもののその具体的な詳細までは明らかになっていなかった学生の負担感の詳細を明らかにできた。また精神的負担について得られたデータは、これまで属性的スティグマに集中してきたアイデンティティティ管理研究において不足してきた、能力・達成を基とした否定的評価に対するアイデンティティ管理のあり方の分析を可能とするものである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
今年度第1の作業目標としていた、国内学生へのインタビュー調査は、首都圏だけでなく他の2地域でも実施することができ、人数も予定を上回る数の対象者に対して実施することができた。さらに海外学生のインタビュー調査も実施でき、日本の学生の抱えていた負担のうち特に時間的・精神的負担が、日本の就職・採用活動の持つ一括・一斉採用や評価基準の不透明さというあり方と関連していることが明らかになった。また第2の作業目標であった統計資料の検討により、就職活動のあり方が1990年代前半を境として、当事者の負担が大きいものへと変わったことが明らかになった。 これらの作業目標をこなすことで、就職活動における学生の負担を分節化して記述する、という今年度の目標が達成できた。具体的には、企業選択、選考準備、選考結果の受け止め方、次の選考への準備、のそれぞれの局面において生じる負担や要望についてのデータを収集することができた。こうしたデータは、負担を減らすための具体的な改善策の提示や、現在行われている支援の成果を評価する上で欠かせないと考えられる。 またこうした負担のあり方がいつから生じてきたかについての分析、および海外の学生との比較を通じて、負担を生じさせやすくする要因のうち特に、日本特有の就職活動のあり方や制度によるものを特定することができた。もちろん個人の負担の要因は、こうした制度的な要因だけに留まらない。しかし制度的な要因を踏まえることで、さらに個人の社会関係や社会的属性による影響を分析することが可能になると考えられる。 以上の理由により、今年度の成果は、就職活動において生じている負担の正確な把握および改善策の提案、という当初の研究目的の達成へとつながるものである。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究においてはまず、これまでの研究で明らかにした負担の社会制度的要因を踏まえつつ、個人ごとの負担感の違いに着目した分析を行う。このような分析を行う理由は3つある。第1に、個人ごとの違いを無視してしまうと、特定の学生のあり方を学生全体の姿として過度に一般化してとらえることにつながってしまう。それは共通の社会制度的要因の影響力を過大視し、学生側の主体性を無視した社会決定論的な見方をもたらす。就職活動のあり方を正確に描くには、学生個々人の多様なアイデンティティ管理を含めて像を描き出す必要がある。第2に、個人ごとの負担感の違いの分析により、個人の社会関係や社会的位置が、負担感に対して与える影響を明らかにすることができる。このような分析は、負担感の要因の重層性を踏まえた議論を可能にする。第3に、個人ごとの負担感の違いの分析は、学生が行うアイデンティティ管理の効果や、それが行いやすく/行いにくくなる条件を整理することにつながる。 また今後の研究では、現在の採用活動のあり方の選抜としての特徴を、他の選抜のあり方(例えば学校教育段階における学力試験)と比較しながら検討する。特に着目するのが、こうした選抜の特徴が、学生の選考準備や企業選択の仕方に与える影響である。このような検討は、各当事者にとってより負担の少ない選抜のあり方を考えるという本研究の目的に欠かせないものである。 以上の研究成果はテーマごとに、日本社会学理論学会、日本教育社会学会、日本社会学会にて報告し、そこで得られた改善点をもとに、投稿論文にまとめる予定である。
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Research Products
(1 results)