2015 Fiscal Year Annual Research Report
チョウ媒花に対する盗花粉者から送粉者へのシフトと花形質への影響
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14J11613
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Research Institution | Chiba University |
Principal Investigator |
山路 風太 千葉大学, 理学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | 送粉生態学 / 新規送粉様式 / キツネノカミソリ / コハナバチ / 盗花粉者 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究ではキツネノカミソリにおける送粉者との関係、特にbreaking-bud pollination(以下BBP)という新規送粉様式の意義について検証を行っている。通常の送粉者は花が開いた状態の時に訪れ、花粉や蜜を集めるとともに柱頭へと花粉が運ばれる。これに対してBBPは、花が蕾から開き始めた段階にコハナバチの1種が訪れ、花の内部で花粉を集めるとともに花粉が柱頭に付着するものである。これまでの送粉様式とは全く異なるBBPはキツネノカミソリに対いてどのような影響を与えているのか、検証を行ってきた。 昨年度はキツネノカミソリ複数集団において、訪花昆虫観察及び花形態の測定を行った。キツネノカミソリには現在3つの変種が記載されており、それらは花形態や生息地、開花期などの違いから分類されている。特に花形態については、変種の1つであるオオキツネノカミソリはキツネノカミソリと比べて花の大きさが2倍近く大型であるなど、大きな違いのみられる形質である。このような違いはどのようにして生じたのかについて、「送粉者の違いが花形態の違いをもたらした」という仮説のもと調査を行った。 調査の結果、キツネノカミソリの花形態はクラスター解析の結果3つのグループに分けられたが、それらは変種ごとにはまとまらない場合がみられた。また訪花昆虫観察の結果、コハナバチの仲間、大型のハナバチの仲間、そしてアゲハチョウの仲間という3タイプの昆虫が訪花昆虫全体の80%以上を占めることが明らかになった。さらにbreaking budへのコハナバチの訪花は限られた集団でのみ見られ、そのような集団は花形態では1つのグループにまとまることが明らかとなった。最後に得られたデータの相関関係について、一般化線形混合モデルを用いて検証したところ、コハナバチ・大型のハナバチの送粉頻度が特に花形態に影響している可能性が示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
まずこれまでの調査により明らかとなったBBPの発見についての論文が無事アクセプトされ、最低限の成果を得ることはできたと考えている。 また複数の集団における訪花昆虫観察及び花形態測定から、キツネノカミソリが送粉者の違いによって花形態が変化している可能性が示された。特にBBPの観察された集団はクラスター解析で1つのグループにまとまったことは興味深い結果であり、本例のような特殊な送粉様式が花形態に影響を与えていることを示唆する結果であると考えている。 一方で上記とは別に籠かけ実験を行っている。これはBBPと完全に開いた花との適応度の比較・及びコハナバチが盗花粉者を行っている可能性について検証するための実験である。しかし、籠かけ実験に用いた籠が適切でなく、コハナバチ以外の訪花昆虫も侵入していることが観察された。これに関しては準備不足・調査不足の面が否めず、本研究の進捗を大きく遅らせてしまっている原因である。また遺伝解析のためのマーカー開発についても、多型が十分でないなどの理由から、進捗状況は順調であるとは言えない。 以上の理由から「やや遅れている」という判断に至った。
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Strategy for Future Research Activity |
1.籠かけ実験の修正・再試行:進捗状況の大きく遅れてしまっている原因と考えられる籠かけ実験について、実験に使用する籠を改めて選定し直す。選定では、候補となる籠を複数用意し、コハナバチの訪れる別の植物を用いて籠かけ及び訪花昆虫観察を行う。コハナバチは5月ごろには地上部に現れるため、現在は5月に開花するナルコユリなどを用いて検証を行う予定である。
2.植え替え実験:これまでの結果から、BBPがキツネノカミソリの花形態に影響を与えている可能性が示唆されている。しかしその適応的な意義についてはいまだに明らかとなってはいない。そこで今後は、別集団から複数の個体を人工的に移入し、適応度の比較を行うことでBBPの適応的意義について検証することを考えている。具体的には、昨年度の結果から得られた3つの花形態グループそれぞれ2集団ずつを用いて、1集団30個体を目安に移植実験を行う。さらにbreaking budへのコハナバチの訪花が確認でき次第袋かけ実験を行うことで、breaking budに対してのみの適応度の比較を行うことができる。
3.その他:昨年度の結果について論文として発表することを目標に執筆を進める。また昨年度から取り組み始めたヒガンバナ属内の系統関係についてより多くのサンプルを集めるため、中国での共同研究者とのサンプリングを計画中である。さらに系統解析に用いる核マーカーの選定などを行っていく予定である。
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Research Products
(3 results)