2015 Fiscal Year Annual Research Report
保存修復技法・思想の総合的研究:チェーザレ・ブランディ修復学の受容と現代性
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14J12338
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Research Institution | Tohoku University of Art and Design |
Principal Investigator |
田口 かおり 東北芸術工科大学, 芸術学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2014-04-25 – 2017-03-31
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Keywords | チェーザレ・ブランディ / ドキュメンテーション / 修復の理論 / 古色 / ウンベルト・バルディーニ / 文化財レスキュー / 補彩 / 洗浄 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、(1)チェーザレ・ブランディ「修復の理論」の国際的な受容の解明とベルギー修復学との比較検討、(2)現代の保存修復学におけるドキュメンテーションの意義の検討と現状調査を二つの大きな柱としている。 1年目は3年間の基盤を築く為の資料精読と資料収集を集中的に行い、その成果の集大成として単著「保存修復の技法と思想」を出版した。この成果を踏まえた上で、2年目は年間を通して申請者の研究の主軸であるベルギーおよび周辺国の修復理論の研究に精力的に取り組んだ。この基礎研究と並行し、本年度はとりわけ、国内外における学会発表やシンポジウムへの登壇、論文執筆、作品調査などを行ってきた。具体的な実績を以下に記す。
国外では、第56回ヴェネチア・ビエンナーレ国際美術展の現地調査を行ったほか、ヘルシンキ国立美術館とヘルシンキ現代美術館保存修復センターにおける作品調査を通じ、複合的な素材から構成される現代美術の保存と修復の実態について知見を深め、各関係者と情報を交換した。さらに、北欧修復協会国際学会において発表を行った。
国内では、東京国立近代美術館にて特別展「No Museum, No Life?―これからの美術館事典」関連シンポジウムに登壇し講演を行った。また、井田照一《タントラ》(豊田市美術館所蔵)の総合調査を行い、とりわけ劣化の著しい諸作品について適切な保存方法や再展示を提案し、改良処置を施した。さらに、ジャン=フランソワ・ミレー《バター作りの女》、椿貞雄《自画像》などの光学調査を実施し、後者の成果を論文として執筆し掲載した。さらに、1960年代のイタリアにおける被災文化財レスキューの実態を解明した小論文を「歴史資料ネットワーク」の公式サイト上で継続的に発表してきた。国内学会では、表象文化論学会第10回研究発表集会において、文化財保存修復学における光学調査の実態をテーマとする口頭発表を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
昨年度までの研究成果を地盤とし、充実した調査と資料分析を行ってきた。また、国内外での学会発表および国立美術館におけるシンポジウムへの登壇などを通じて、当初の計画以上の速度で研究成果の報告と公開を行っている。さらに、被災文化財の保存修復をめぐる諸問題についての小論連載や、各美術館収蔵作品の光学調査など、新たな課題にも取り組み、それぞれについて成果を挙げたことは、大きな達成であると考える。2年目の充実した成果を生かし、3年目にはさらに国内外での活発な研究活動を行うことを予定している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を基盤として研究を進める3年目では、ひきつづき現代の保存修復学の歩みに着目し、修復をめぐる技法と思想の連関をめぐる問題に深く切り込んでいく。チェーザレ・ブランディ研究にかんしては、修復学の著作のみならず網羅的な研究を行うことを計画している。具体的には、ベルギー王立文化財研究所開設初期の光学調査の実態など、ブランディの影響下にあった西洋諸国の科学的修復について調査を進め、その成果を公開することを予定している。また、現代美術の保存修復とドキュメンテーションをめぐる問題に関連して、西洋各国にて顕著な調査結果を挙げている美術館での調査を行い、現状と問題点の正確な把握につとめる。 なお、2016年度は集大成の1年となるため、国内学会での発表および論文執筆により成果を広く報告・公開する1年として設定している。
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Research Products
(5 results)