2006 Fiscal Year Annual Research Report
世界遺産白神山地ブナ原生林における遺伝的構成とその保持に関する研究
Project/Area Number |
15380219
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Research Institution | Hirosaki University |
Principal Investigator |
牧田 肇 弘前大学, 農学生命科学部, 客員研究員 (80004464)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
原田 竹雄 弘前大学, 農学生命科学部, 教授 (10228645)
赤田 辰治 弘前大学, 遺伝子実験施設, 助教授 (10250630)
石川 隆二 弘前大学, 農学生命科学部, 助教授 (90202978)
千田 峰生 弘前大学, 農学生命科学部, 助教授 (30261457)
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Keywords | 世界遺産白神山地 / ブナ(Fagus crenata Blume) / 遺伝的多様性 / 環境適応遺伝子 / R2R3MYB / 遺伝子マーカー |
Research Abstract |
本研究課題の最終年度にあたって、白神山地におけるブナ林の遺伝的構成に関する調査を進めるとともに、ブナ林保全についての将来的な問題に対処する為の研究を行った。それぞれの課題は以下のようにまとめられた。 平成17年度までは主に高倉森調査地(1ha)における遺伝的構成の調査を行ってきたが、平成18年度には環境省のブナ林モニタリング調査地の一つである櫛石山尾根プロット(1ha)のブナ成木63個体を加え、これらの遺伝的多様性を調査した。櫛石山尾根プロットの成木集団はヘテロ接合度期待値He=0.8265、ヘテロ接合度観察値Ho=0.8007であり遺伝的多様性は他地域(鳥取県大山等)で報告されている結果とほぼ同様の値であった。また近交係数Fis=0.0316であり、これも大山と同様の結果であった。これらの値を世界遺産緩衝地域に隣接する高倉森プロットの調査と比較すると、2つの集団はHe、HoおよびFisにおいて極めて近似した値を示した。さらに、櫛石山尾根-高倉森間での遺伝的距離を計算したところ、2集団間の遺伝的距離が非常に近く、遺伝的構造が似ているという結果が得られた。櫛石山尾根と高倉森は地理的に離れているにもかかわらず遺伝的構造が類似していることから、白神山地におけるブナ林の遺伝的多様性が広範囲において維持されていることを示しているものと考えられた。 地球温暖化により将来的にはブナ林の生育面積が大幅に縮小されることが懸念されている。このような問題に対処するためには、これまで一般的に用いられてきた中立的な遺伝子マーカーに加え、環境適応に関わる遺伝子の同定とその多様性を調査する必要がある。そこで、環境適応性遺伝子の探索を行う為、ブナにおけるR2R3MYBファミリーの網羅的なクローニングを進め,これまでに70種類以上の遺伝子断片を同定した。これらをモデル植物のR2R3MYBと比較して系統解析を行ったところ,ブナ遺伝子の多くは既知の遺伝子群と同じクラスターに含まれることが判明した。そのうちの一つFcMYB811はジベレリン応答性のGAMYBにオーソロガスであり、雄花における特異的な発現と新芽におけるジベレリン応答性が確認された。また、FcMYB811のイントロンに存在するSSRの解析により、この遺伝子は非常にヘテロ性が強くHeに比べてHoが有意に高いことから一種の雑種強性に貢献している可能性が推察された。一方、同定されたR2R3MYBの中にはブナにおいて特異的にクラスターを構成するものも多く、また同じ葉の組織でも春と秋とでは発現している遺伝子群が異なることが明らかとなり、草本には見られないユニークな特徴が示された。 以上の研究より、白神山地ブナ林の遺伝的構成がかなり明らかになってきたが、これまでの結果を正当に評価するため、今後も白神山地内及び他地域における調査を継続して行う必要がある。また、環境の変動に対処するための基礎的研究として、環境適応性遺伝子の同定と多様性の研究を継続して行う必要があると考えられる。
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Research Products
(3 results)