2004 Fiscal Year Annual Research Report
「精神障害者家族」の組織化が専門家およびその集団に及ぼす影響に関する研究
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15653031
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Research Institution | Shizuoka University |
Principal Investigator |
南山 浩二 静岡大学, 人文学部, 助教授 (60293586)
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Keywords | 精神障害者家族 / 家族会 / モデルストーリー / 医療化 / アイデンティティポリティクス / マスターナラティヴ / ナラティヴコミュニティ / セルフヘルプグループ |
Research Abstract |
「医学的対象としての精神障害」「就労を中核とする社会復帰」というストーリーは、精神障害者を「治安の対象」として「周辺化」「排除」するストーリーに対抗する形で形成されたものであった。このストーリーは、家族の経験に新たな意味を与え、「声なき声」であった、家族の語りを徐々にではあるが、より広汎な世界へと導く役割を果たしたものであるといえる。モデルストーリーは、個々の精神障害者家族が自らの経験を語ることを鼓舞したとともに、経験をとらえなおすための語彙とフレームを与えたのである。また、家族や精神障害者の苦悩と困難は、医療を中心とした施策的不備や、社会の無理解による問題であるとする見方は、国や行政への運動展開と連動していたのであり、政治的な意図を包含したものでもあった。一方で、このような犯罪学的定義に対抗する形で生成されたモデルストーリーは、多分に医学モデルに依拠することとなる。医学的治療の対象であり、完治し、社会復帰することが可能であるとする見方や、「一部の例外」の設定は、「精神障害」に付与される否定的価値を反転するには至らなかった。この意味において、このモデルストーリーは、社会におけるマスターナラティブに対抗するものであったと同時に、マスターナラティブと同様の帰結をもたらす可能性を有するというジレンマを抱えていたものであった。運動のフレームを医学モデルに多くを負うことは、問題を定義しレトリックを設定することにおいて、医師をはじめとする医療従事者に多くを負うことを意味する。「治療協力者としての家族」「声なき声の代弁者としての家族」といういわばパターナリズムの二重構造のなかで、精神障害者の「声なき声」はまだ聴かれることはなかった。
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