Research Abstract |
パンルヴェ第IV方程式の非線形モノドロミー,即ちポアンカレ回帰写像のなす複素力学系についての研究を行った。岩崎克則は,前年度までの成果である,パンリヴェ力学系の相空間,初期値空間のモジュライ理論的構成,リーマン・ヒルベルト対応による複素三次曲面上の離散力学系への共役写像の構成等の基盤整備に基づき,今年度は下記の研究を行った。 (1)ポアンカレ写像の周期点の個数の計算:パンルヴェ方程式のモジュライ理論的構成,リーマン・ヒルベルト対応の双正則性,複素三次曲面の幾何学,初期値空間上のポアンカレ写像に対応する三次曲面上の双有理写像の力学系の考察,特にその力学系のコホモロジー群への誘導線形写像の考察,力学次数の計算,レフシェッツの不動点公式の適用等の議論を経ることにより,ポッホハマー・ループに沿うポアンカレ写像の周期点の個数を計算した。この公式は,周期を与えたとき,その周期を持つ周期点の個数を明示的に表す具体的な公式であり,特にその個数が周期と共に指数関数的に増大することを示している。 (2)ポアンカレ写像のエルゴード理論的研究:パンルヴェ方程式の定義領域であるリーマン球面から3点を除いた領域上の,すべての非初等的な閉曲線に対して,その曲線に沿うポアンカレ写像がカオス的であることを示した。すなわち,位相的エントロピーが正であること,混合的であり鞍点型の双曲型不変測度が存在すること,その不変測度が最大エントロピー測度であること,その測度の台における双曲型不動点の稠密性等の発見である。その証明には,最近急速に発展している複素曲面上の双有理写像の力学系の成果が極めて有効に応用された。 これらの成果は,従来可積分系の立場から研究されることが殆どであったパンルヴェ方程式の分野に,カオス的な現象が実際に起こることを発見したものであり,その点で全く新しい成果であるといえる。 これらの研究を実行するに際して,研究代表者の岩崎克則は,分担者の石井豊と定期的に複素曲面上の力学系のエルゴード理論に関するセミナーを実施した。また,これまでの成果をまとめた概説論文を執筆した。また,石井豊は,双曲的な複素エノン写像の研究を行った。特に、拡大的1変数多項式の摂動としては決して得られないような双曲的エノン写像の構成に成功した。
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