Research Abstract |
本年度は、昨年度に引き続き,アセトニトリル溶液中における様々なバナジウム錯体の酸化還元挙動をサイクリックボルタンメトリーによって調べた。また,今回調査したバナジウム錯体と同じ配位子を持つモリブデン錯体についても,同様な方法で酸化還元挙動を調べた。すべての錯体の還元波は,酸やアルカリ金属イオンの影響を受けて,正側にピーク電位がシフトした。そのシフト幅の大きさはH^+>Mg^<2+>>Li^+>Na^+の順であった。また,分子軌道計算によって,それぞれの錯体のHOMOとLUMOのエネルギーを計算したところ,そのHOMOとLUMOのエネルギーの差と還元電位との間に相関が見られた。配位子によって,バナジウム錯体のIV価からV価への酸化還元波の可逆性と,バナジウム錯体のインシュリン効果に関する臨床的な実験結果とを比較すると,その酸化還元波が可逆に現れる錯体は,疑似インシュリン効果を示すものが多かった。つまり,酸化還元挙動と疑似インシュリン効果との間に関連があると示唆された。 一方モリブデンは,バナジウムと同様に幾つかの酸化状態が知られているにも関わらず,今回調査したモリブデン錯体の酸化還元波はどれも不可逆であった。 さらに,錯体の酸化還元に及ぼす溶媒の効果を調べるために,アセトニトリルに水を添加してサイクリックボルタモグラムを測定したところ,オキソ基をもつバナジウム錯体は,添加した水の濃度に応じてボルタモグラムの形が大きく変化した。オキソ基を持たない,同じ配位子からなる鉄やコバルト錯体では,電位は変化しても,その酸化還元波の形は変化しなかった。これは,オキソ基が水と置換したか,さらに水分子が配位したと考えられる。 以上のことから,可逆に酸化数が変化し,疎水的あるいは親水的環境に応じて自由にその配位環境を変化させることが可能なバナジウム錯体が,疑似インシュリン効果が高いと考えられる。
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