Research Abstract |
これまでの研究により,数種のCAM植物において,乾燥ストレスと光の複合的な要因によって葉肉細胞の葉緑体が集合する現象が見出されている.この場合,葉緑体の集合体は細胞内部に塊状体として出現する.強光,乾燥,塩などさまざまな環境ストレスは,植物細胞内の活性酸素の生成を促し,機能障害や細胞死をもたらす.自由に移動できない植物には,このような活性酸素に対する防御・応答機能が存在することが知られている.本研究では,活性酸素種の一つである過酸化水素(H_2O_2)がCAM植物の葉緑体運動に及ぼす影響について調査した.また,葉緑体集合運動に伴う抗酸化酵素;アスコルビン酸ペルオキシダーゼ(APX),カタラーゼ(CAT),スーパーオキシドジスムターゼ(SOD),およびグルタチオンレダクターゼ(GSSG-R)の活性変動について調査した. 供試植物にはベンケイソウ科のベニベンケイ(Kalanchoe blossfeldiana)を用いた.活性酸素の生成を抑制するためNADPHオキシダーゼ阻害剤であるdiphenyleneiodonium chloride(DPI)を使用した. 1,植物を水耕栽培して,培養液(対照区)に100μM ABA(ABA区),100μM H_2O_2(H_2O_2区),100μM ABAと100μM DPI(ABA+DPI区)をそれぞれ含む実験区を設定した.光照射下で,処理12時間後,ABA区およびH_2O_2区では葉緑体の集合体は見出されたが,ABA+DPI区では見出されなかった.ABA+DPI区での葉緑体は,対照区の配列と比べると,葉緑体同士が若干密接していた.この時の各処理区の葉内H_2O_2量を比較すると,ABA区およびH_2O_2区は,対照区に比べ1.4から1.7倍高い値を示した. 2,通常条件下で育成されていた植物体を抜き取り乾燥土壌に植え替えることで乾燥ストレスを誘導し,葉緑体の動態,H_2O_2量,および抗酸化酵素活性の日周的な変動を調査した.葉緑体集合体の形成時(暗期直前)にH_2O_2量およびGSSG-R活性のピークがみられ,その後,葉緑体が分散していくにつれてH_2O_2量およびGSSG-R活性は減少した.APX活性のピークは暗期開始3時間後にみられ,SOD活性は暗期に移って増加した.CAT活性は日周的に大きな変動はみられなかった. 以上の結果から,CAM植物の葉緑体集合の誘導にH_2O_2が関与していることが示唆された.この誘導にはABAも関与しているが,さらにその下流の誘導因子としてH_2O_2が位置すると考えられる.また,このような活性酸素の調節機構には,アスコルビン酸/グルタチオン(AsA/GSH)回路が重要な役割を果たしているのかもしれない.
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