Research Abstract |
中国南西部では森林伐採,過耕作など過剰な人間活動に伴う環境負荷によって生態系の劣化が顕著となり,深刻な場合には植生および土壌被覆が完全に消失し石灰質岩が裸出化する現象が起きている。中国ではこの現象を"石漠化 Rock Desertification"と呼び,砂漠化,土壌塩類化と同様に,深刻な環境問題としてその保全対策を講じ始めている。しかし,砂漠化や土壌塩類化に比べ,石漠化の退行過程には不明な点が多く,現在行われている対策は対処療法的な植林などに過ぎない。そこで,石漠化を引き起こす直接的な要因を推定し,対策プログラムの一助とするために,中国南西部カルスト地域における石漠化過程,特に植生退行現象の解析を行った。調査地域は中国南西部における石漠化問題の代表地の一つである雲南省文山壮族苗族自治州西畴県とした。調査は人為影響の少ない小橋溝自然保護区を石漠化地域の修復および保全目標となる生態系モデルとして選び,攪乱停止後の遷移年数に応じて,石灰岩地および非石灰岩地の高木林,低木林,草原にそれぞれ調査枠を設定した。調査枠内では,林冠および林床植生の種多様性,群落構造,胸高断面積合計などを計測した。その結果,石灰岩地は,非石灰岩地に比べて,樹木の生長が遅く,種組成および高さや胸高直径の階構造が単純であること,林床の種多様性は高いことが示唆された。また遷移段階別に種組成を比較すると,非石灰岩地では各段階間で組成的な共通性が高いのに対して,石灰岩地では組成的な共通性がやや希薄で,特に伐採後間もない草地では,その後の遷移段階と種組成の共通性が極めて低かった。これらより,石灰岩地では林床植生が林分全体の種多様性を高めているが,遷移の進行が遅く,特に木本種の再生が遅く,場合によっては木本種の定着が困難であることが示唆された。
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