Research Abstract |
本研究では,食道癌培養細胞T.Tnを用いて食道癌のリンパ節転移に関与する因子の同定を行った.まずin vitroにおいてT.Tn細胞から遊走能の高い細胞,あるいは細胞-細胞間,細胞-基質間の接着能の高い細胞をクローンニング後,ヌードマウス同所性移植モデルを用いて,リンパ節転移を示す亜株T.Tn-AT1を分離した.次に,T.Tn細胞とT.Tn-AT1細胞における遺伝子発現の違いを9206個の遺伝子をスポットしているCodeLink Bioarray (Motorola)を用いて検索した.予想された通り両細胞の遺伝子発現profileは類似しており,3倍以上の発現の差が認められた遺伝子はわずか34個であった.34遺伝子のうち29個はT.Tn-AT1において発現が低下しており,5個は発現が上昇していた. 34遺伝子のうち,その発現の差が顕著であり,浸潤転移に関与が高いと考えられた14遺伝子に関して半定量RT-PCRを行い,その発現の差を確認した.その結果9遺伝子(KAL1,HPGD, NDN, REG1A, CXCR4,SPOCK, DIAPH2,AIF1,VNN2)においてマイクロアレイと同様の結果が得られた.これら9遺伝子は,それぞれ細胞接着,遊走,炎症,増殖,分化に関る遺伝子であり,転移過程で重要な役割を果たしていると考えられた.その中でCXCR4はケモカインレセプターSDF-1の受容体であり,癌細胞の臓器指向性,転移先での浸潤性増殖に深く関与していると考えられている.種々の癌組織におけるCXCR4の発現を検索すると,転移能の高いものに発現が高い傾向が見られた.さらに,非転移性の癌細胞にCXCR4を導入するとその遊走能が促進されることが明らかとなった.CXCR4の細胞内での作用はsrcファミリーキナーゼのリン酸化,それに引き続いてERK1/2,AKTのリン酸化を介して発揮されることも明らかとなった.
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