2003 Fiscal Year Annual Research Report
卵巣癌の初期発生過程におけるBRCA1遺伝子の異常と機能的意義
Project/Area Number |
15790883
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
伊東 和子 信州大学, 医学部附属病院, 助手 (40303458)
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Keywords | 卵巣癌 / BRCA1遺伝子 / メチル化 |
Research Abstract |
BRCA1遺伝子は家族性乳癌/卵巣癌症候群の原因遺伝子の一つで、ゲノム安定性、細胞周期制御、DNA損傷とりわけ二本鎖DNA切断時の修復に重要な役割を果たしている。本研究では、散発性上皮性卵巣腫瘍組織においてBRCA1蛋白発現を検討し、良性、境界悪性および癌での発現を比較した。更に、BRCA1遺伝子領域のLOHおよびpromotor領域のメチル化の有無を検討した。 手術標本より採取された上皮性卵巣癌119例を対象にBRCA1の免疫組織染色を行い、組織型別、gradeと進行期別に検討した。次にBRCA1発現低下の分子機序を解明する目的で上皮性卵巣腫瘍のパラフィン包埋切片からDNAを抽出し、BRCA1遺伝子特異的マイクロサテライトマーカーを用いてLOHを検討した。最後にmethylation specific PCR(MSP)法にてプロモーター領域のメチル化の有無を検討し、次の結論を得た。 1)上皮性卵巣腫瘍においてBRCA1が陰性となる頻度は、良性腫瘍で16%、境界悪性腫瘍で38%、癌で72%と、癌においてBRCA1蛋白の発現低下が有意に高頻度であった。BRCA1発現と組織型、gradeおよび進行期との有意差はなかった。 2)LOHは良性腫瘍の15例では認めず、境界悪性腫瘍の13例中2例で、癌では64例中38例(66%)が陽性であった。漿液性腺癌では、LOH陽性が85%と有意に高頻度であった。またBRCA1蛋白発現とLOHの有無の間に相関関係は認められなかった。 3)メチル化陽性は良性及び境界悪性腫瘍ではいずれも認められず、癌ではメチル化は64例中20例31%に検出された。漿液性腺癌ではメチル化が50%と有意に高頻度であった。また、BRCA1メチル化陽性と蛋白発現との間に有意な相関関係が認められた。 4)癌の同一症例中、境界悪性病変はメチル化陰性でBRCA1発現陽性、癌病変ではメチル化陽性でBRCA1発現陰性であった。 以上の結果より、散発性卵巣癌においてBRCA1遺伝子の両方のアリルの抑制がLOHとメチル化により生じることで漿液性腺癌の発生に関与している可能性が示された。lまた、漿液性腺癌の一部には、境界悪性腫瘍から続発性に癌化する経路も存在する可能性が示された。
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