2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15H01843
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
岡村 均 京都大学, 薬学研究科(研究院), 教授 (60158813)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 概日リズム / 視交叉上核 / GPCR / Gタンパク質 / 光ファイバー / ルシフェラーゼ |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究においては、物質・分子・細胞・回路という現代の新しい考え方で生体リズム中枢視交叉上核(suprachiasmatic nucleus: SCN)を再定義し直し、分子から行動までのリズム発振の分子メカニズムを解明する。SCNは生体リズムの発現には必須の神経核であり、この部位の破壊で、生体リズムは消失する。哺乳類のリズム発振に関しては、全身の細胞中での時計遺伝子の転写翻訳フィードバックループによるロバストなリズムが確認されているが、未だに、なぜSCNのみが全身の細胞リズムを駆動する力を持っているのかは、解明されていない。最近、代謝サイクルのリズムが時計発振に関与するという新しい考えが出てきて、時計の概念が根本的に変ろうとしている。これまで、我々はSCNの遺伝子を網羅的にノックアウトするプロジェクト(SCN-Gene Project)にて、SCN特有の神経回路がリズム産生や時差に必須であることを解明してきた。今回我々は、無麻酔・無拘束下の動物のSCNからPer1とPer2の転写発現をluciferase発光としてモニターできる遺伝子改変ラットを用いて、脳内に直接光ファーバーを挿入しリズム発振の様子を検出した。その結果、Per1転写がPer2転写に先行してリズムを描くことを生体で初めて解明した。さらに、SCNの神経伝達で重要な役割を担う、G蛋白質共役受容体(GPCR)にも詳細な検討を行なった。その結果、GPCRファミリーに属する新規オーファン受容体分子Gpr176を同定した。さらにこのGpr176は、これまで過去によく解析されてきた他のGPCRとは異なり、Gzという特殊なG蛋白質を介して下流にシグナルを伝えることがわかった。GPCRは創薬ターゲットとして優れた性質を持っているので、Gpr176を標的とした今後、睡眠障害に対する新しい治療法や予防法の開発が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
行動レリズムはSCNの形成する概日リズムにより形成されている。このリズムは、時計遺伝子Per1、Per2の転写・翻訳フィードバックループにより形成される。今回、我々は、無麻酔・無拘束下の動物のSCNからPer1とPer2の転写発現をリアルタイムでモニターし、そのリズム発振の様子を検索した。プロモーター制御でルシフェラーゼ(luc)を発現する2種類のトランスジェニックラット(Per1-lucラットおよびPer2-lucラット)を用いた。自由行動下のこれらのラットSCNに光ファイバーを挿入し、ルシフェラーゼの基質であるルシフェリンを浸透圧ポンプによりSCNに持続投与し生体発光の変動を経時的に検索した。その結果、Per1-lucラットおよびPer2-lucラットのどちらも、明瞭な生体発光の概日リズムを示したが、振動のピーク時刻は異なっており、Per1-lucの発光ピークは主観的明期の中頃に、Per2-lucの発光ピークはそれより3時間程度遅れていた。続いて、SCNの神経伝達で重要な受容体に関しても研究した。今回、我々は、体内時計中枢SCNに発現するG蛋白質共役受容体(GPCR)ファミリーに属する新規オーファン受容体分子Gpr176を同定した。Gpr176は、生体リズムの中枢に作用して時刻調整を行うという優れた性質をもつ。さらにこのGpr176は、これまで過去によく解析されてきた他のGPCRとは異なり、Gzという特殊なG蛋白質を介して下流にシグナルを伝えることがわかった。GPCRは創薬ターゲットとして優れた性質を持っているので、Gpr176を標的とした今後、睡眠障害に対する新たな生体リズム調整薬の開発が期待される。
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Strategy for Future Research Activity |
1)SCN-Gene Projectによるスクリーニングの継続を行なう。すなわち、SCNのDNAマイクロアレイの結果得た十数個の遺伝子を、SCN定量的in situ hybridizationの手法にて検索する。今年度は、睡眠異常が疑われている遺伝子のSCNでの発現も検索する。この遺伝子ノックアウトマウスを作成導入し、それらを、専用の明暗コントロールボックスにて、個体ごとのマウスの24時間リズムを3ヶ月以上にわたって様々な行動検索を行なう。 2)時差の数理モデル解析。以前の、我々の実験によりバソプレッシン・V1受容体神経系が時差の根源である事は間違いない(Science 2013)。Koriらと構築した数理モデルでもこの神経伝達が減弱することで時差が無くなった。今回、バソプレッシン神経伝達が細胞レベルでのリズム発振に如何なる影響を及ぼすかを、生物実験のみならず数理モデルでも検証する。 3)細胞間のリズム発振調節のみならず、細胞内ではRNAレベルでのリズム制御機構が、時間を形成する時計遺伝子による転写のフィードバックループとともに、注目されている。今までの生物学の考えでは、mRNAはDNAの遺伝情報を忠実に運ぶ運び屋に過ぎないと考えられてきたのであるが、我々はmRNAが、RNA塩基が化学修飾(メチル化)が付加されると(m6A)、新たな機能が生まれることを初めて明らかにした。今年度は、メチル化のターゲット遺伝子産物を検索同定し、分子レベルでその詳細を明し、RNAメチル化された遺伝子産物をプロファイリングし、遺伝子操作を行ない機能を検定する。 4)動物行動の全く正反対のリズムである、昼間活動の高い昼行性と、活動が夜高い夜行性のリズム生成機構を検索する。そのため、昼行性動物(マーモセット)と夜行性動物(マウス)を対照して、分子機構を検索する。
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Research Products
(10 results)
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[Journal Article] Gpr176 is a Gz-linked orphan G-protein-coupled receptor that sets the pace of circadian behavior2016
Author(s)
Doi M, Murai I, Kunisue S, Setsu G, Uchio N, Tanaka R, Kobayashi S, Shimatani H, Hayashi H, Chao H-W, Nakagawa Y, Takahashi Y, Hotta Y, Yasunaga J, Matsuoka M, Hastings MH, Kiyonari H, Okamura H
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Journal Title
Nature Commun
Volume: 7
Pages: 10583
DOI
Peer Reviewed / Open Access / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] 3beta-hydroxysteroid dehydrogenase isoforms in human aldosterone-producing adenoma2015
Author(s)
261Konosu-Fukaya S, Nakamura Y, Satoh F, Felizola SJ, Maekawa T, Ono Y, Morimoto R, Ise K, Takeda KI, Katsu K, Fujishima F, Kasajima A, Watanabe M, Arai Y, Gomez-Sanchez EP, Gomez-Sanchez CE, Doi M, Okamura H, Sasano H.
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Journal Title
Mol Cell Endocrinol
Volume: 408
Pages: 205-212
DOI
Peer Reviewed / Int'l Joint Research
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