2017 Fiscal Year Annual Research Report
POSデータを活用した家計別物価水準の計測と家計消費行動の分析
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15H01945
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
阿部 修人 一橋大学, 経済研究所, 教授 (30323893)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | POSデータ / 家計消費 / インフレ期待 / 物価指数 |
Outline of Annual Research Achievements |
2017年度に行った研究は下記のとおりである。(1)2015年度に行った将来のインフレ期待に関する調査で対象となった同一個人相手に二度目の調査を行い、パネルデータとした。これにより、個人間の異質性の一部を固定効果として処理することが可能になり、かつ、通時的な変化と様々な個人属性との関係を分析することが可能になる。調査は2018年に行い、前回の2016年から2年が経過している。この間、金融政策や主要国の政権、経済政策に大きな変化が生じており、かつ、公式の消費者物価指数も上昇傾向にある。今回のパネルデータ化は、そのような経済環境の変化の中で、各個人の認識するインフレ率がどのように異なり、またどのような情報により改訂されるのかを分析することを可能にするものである。(2)本研究プロジェクトでは、大規模な商品別・店舗別取引データ(POSデータ)を活用しているが、そこには容量(グラム、リットル)やメーカー名の情報は含まれているが、カロリーやたんぱく質等の栄養素の情報は含まれていない。しかしながら、商品の価格を見る場合、商品の品質、特に食料品に関しては栄養素の情報が非常に重要になるはずである。2017年度には、IMD社から栄養素データベースを入手した。これは、加工食料品のみならず、地域限定の外食チェーンやコンビニエンスストアの日配品の情報も含む大規模なものであり、POSデータとのマージや家計調査等の支出データと組み合わせることで、カロリー単価などの地域差、あるいは個人差が分析可能になると思われる。 また、研究結果を報告し、議論するため、ヨーロッパ経済学会(EEA-ESEM)に参加し、セッションで研究報告した。また、Prasada Rao等、内外の物価研究の専門家を招聘し、価格と生産性に関するコンファレンスを開催するなど、研究報告・議論の機会を多数設けた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究プロジェクトでは、これまで物価水準とその将来予測の家計・個人間における差異、および、そうした個人間差異と消費の関係を分析するため、データベースを独自調査や既存サーベイの加工により構築してきた。特に、家計・個人間で異なるインフレ期待やインフレの水準及びその改定メカニズムに関しては多くの結果を得ることができ、論文執筆、研究報告も進んでいる。特に、インフレ期待の改定に関し、実験を行った研究成果は複数の研究論文となり、国際学会やコンファレンスで報告する機会を得、現在英文査読誌に投稿中である。また、大規模なPOSデータを用いた物価や総需要、総供給分析や、容量調整を組み入れた単価指数の分析、およびその指数理論的基礎等、いくつかのマクロ経済分野における研究論文の執筆、査読誌への投稿も進んでいる。 本研究プロジェクトに参加する共同研究者(研究協力者)の数は増大しており、特に栄養素やカロリーに関する価格と消費情報を用いた研究には、医療経済の専門家も参加するなど、研究対象及びその規模も拡大している。さらに、Prasada RaoやErwin Diewert、Robert Hill等、物価指数理論分野で顕著な学術的貢献を行ってきた研究者との研究交流を行い、毎年国際コンファレンスを開催し、彼らとの共同研究も進んでいる。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究プロジェクトにおいて残された課題の一つは、インフレの将来期待と家計消費の関係に関する分析である。標準的な消費理論に従うと、インフレ期待は将来の実質消費の主要規定要因であり、インフレ期待と将来消費の間には強い関係があることが予想される。そこで、2017年度に行ったインフレ期待に関する独自調査では、インフレ期待と将来の消費変化に関する設問を加えた。これにより、インフレ期待の異なる家計が、どのように異なる消費変化を予想しているかを分析することが可能になり、さらには、消費のオイラー方程式を、合理的期待などの強い仮定をおかずに推計することが可能になる。この調査結果を用いた分析を2018年度に行う予定である。また、栄養素やカロリーの価格情報及びその地域間差異を用いた家計消費モデルの分析も、2017年度に入手した栄養素データベースと家計調査やPOSデータと紐づけることで研究を行う予定である。研究規模の拡大とともに、計算量も増加しているため、さらなるデータベースの拡張とその計算環境の整備を行うと共に、研究成果を議論するため、内外の専門家を招聘する国際コンファレンスを開催する予定である。
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Remarks |
日本経済新聞/ 日本経済新聞社/『やさしい経済学』連載2017年4月14日~2017年4月25日 全8回 【雑誌連載】阿部修人 指数理論への招待 『経済セミナー』2017年10・11月号, 2017年12・2018年1月号, 2018年2・3月号/ 日本評論社
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Research Products
(5 results)