2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15H02022
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
塚崎 敦 東北大学, 金属材料研究所, 教授 (50400396)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / 結晶工学 / 誘電体物性 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題の目的は、スズをBサイトに有するペロブスカイト構造酸化物およびLiNbO3構造の積層界面において伝導性を制御することにある。それらの積層構造の作製と界面物性を議論する前段階として、薄膜物質科学の観点から研究を行う必要がある。なぜなら、スズ系酸化物はAサイト元素の大きさに依存して様々な構造を取りうるためである。したがって本研究では、薄膜安定化に向けた物質科学的側面と、界面形成による機能発現を行うことを2つに分けて研究を進めている。昨年に引き続き、今年度も、ペロブスカイト構造とLiNbO3構造の両面で研究を進めた。 1, ペロブスカイト構造BaSnO3に関連する論文を2報、報告した。一報目は、SrTiO3基板上のBaSnO3高品質化に向けて、大きな格子不整合を緩和する緩衝層の開発を行うことで、直接堆積した従来の薄膜品質に比べて飛躍的に高品質な導電性BaSnO3薄膜の作製に成功したことを報告した。続いて二報目では、(Sr,Ba)SnO3とBaSnO3との積層界面を活用した電界効果型トランジスタを作製して、室温での電界効果移動度向上に対して、界面形成の有用性を報告した。さらに、電気二重層トランジスタで移動度向上を観測した結果についても、現在論文投稿中である。 2, 続いて、LiNbO3構造に着手しており、Pbフリーの強誘電体として学術的にも工学的にも重要な課題といえる。まず、ZnSnO3に着目して研究を進めているが、この物質におけるLiNbO3構造は高圧相である。したがって、パルスレーザ堆積法で様々なターゲット物質と基板材料、堆積条件の探索を行った。しかしながら、薄膜作製条件の最適化には至っていない。そこで、分子線エピタキシー法に手法を変更したところ、薄膜化の兆候が得られ始めた。現在では単相膜の作製に成功しており、さらなる高品質化に向けた条件最適化に取り組んでいる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
(1)BaSnO3薄膜の高品質化と伝導特性制御 この研究課題に対して、2報の既報論文と1報の投稿中論文の内容について応用物理学会などで報告している。新しい透明導電性酸化物の一つと期待されるBaSnO3の高品質薄膜作製技術として、[1] (Ba,Sr)SnO3緩衝層の提案、[2] (Ba,Sr)SnO3/BaSnO3積層界面の高移動度化、[3]固体ゲート電界効果トランジスタと[4]電気二重層トランジスタという、全て従来のBaSnO3研究にはない新しいアイデアとして適用して、伝導特性改善を報告した。 (2) LiNbO3構造ZnSnO3薄膜化への試み 目的物質であるZnSnO3は高圧相であるため、薄膜化における成長プロセスを検討しながら作製条件を詰める必要がある。まず、パルスレーザ堆積法に用いる原料ターゲットと基板材料を検証したが、良い組合せを見出すことはできなかった。高圧相の難しさは、堆積温度をあまり高くすると熱力学に不安定な領域になるため、狭い温度範囲の中で原料供給を最適に行いつつ、高圧相を安定化させなければならない点である。現在は分子線エピタキシー法に移行し、比較的低い温度で、LiNbO3構造のZnSnO3薄膜化できる条件を見出すことに成功した。強誘電性の評価にはまだ至っていないが、表面形状やx線回折などを用いた評価では、単相状態になっていることは確認されている。強誘電性以外の物質パラメータ測定も行っており、知見を蓄えつつ、積層構造化に向けた混晶化薄膜などの作製にも着手している。また、強誘電性を検証するための下部電極層についてもパルスレーザ堆積法を用いて準備を進めている。 上記の点から判断し、研究課題の中間地点以上に大いに進展していると判断できる。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) ペロブスカイト構造積層界面物性の開拓 (Sr,Ba)SnO3 / BaSnO3の界面伝導性をさらに検証していくべく、低温輸送現象の測定に注力する。電気二重層トランジスタや原子層堆積装置を用いたアルミナ絶縁層の電界効果トランジスタでは、室温以下で金属的な抵抗の温度依存性を評価しつつある。ホール効果測定を効率的に行える状況になっていることから、さらなる高移動度化の実現を目指し、界面二次元電子系の量子輸送現象観測を狙う。特に今年度は、高濃度電荷蓄積と高移動度化された界面電子系に対して、低温物性の評価を行う。
(2) LiNbO3構造積層界面の作製 分子線エピタキシー法を駆使することで、高圧相ZnSnO3薄膜の作製に道筋が見え始めている。この作製条件をさらに最適化させると同時に、ZnサイトもしくはSnサイトへの不純物添加を行い、薄膜特性の変化を調べる。まずは、高圧相を安定化させるために、特に温度と酸素雰囲気に着目して成長条件の最適化を行う。続いて、バンドギャップエンジニアリングの確立を目指し、作製した薄膜の物性評価を多角的に行う。また、強誘電特性の評価と同時に、原子レベルでの構造評価を進めることが今後の進展に向けては重要になる。研究協力者である東京大学柴田准教授と詳細な薄膜の構造評価、特に元素欠陥の検証と界面構造評価を進め、界面構造の理解と物性発現を目指す。特に、誘電性に対する不純物の効果と格子歪みの影響を明らかにすることは、スズ系強誘電性薄膜の特性をまとめる上で重要な知見と考えており、作製、物性評価と構造評価を総合的に進める。
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Research Products
(5 results)