2015 Fiscal Year Annual Research Report
研究評価にもとづく選択的資源配分の政策効果と意図せざる結果に関する国際比較研究
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15H03407
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Research Institution | Hitotsubashi University |
Principal Investigator |
佐藤 郁哉 一橋大学, 大学院商学研究科, 教授 (00187171)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
川嶋 太津夫 大阪大学, 未来戦略機構, 教授 (20177679)
遠藤 貴宏 神戸大学, 経済経営研究所, 准教授 (20649321)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2019-03-31
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Keywords | 研究評価 / 国際比較研究 / 大学ランキング / インパクトファクター / 政策効果 / 意図せざる結果 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、予備調査で収集した文献や資料を通して、日英両国における研究評価およびそれにもとづく選択的資源配分の実態を把握するとともに、資料調査や海外での聞き取りを通して新たに入手した情報の検討を加味した上で、平成28年度以降におこなう本格的な国際比較研究のための分析枠組みの構築につとめた。 特に注目したのは、英国の研究評価事業においては、回を重ねる毎に、評価対象として提出される研究業績の刊行種別の構成に大きな変化が見られる、という事実である。また、資料調査の結果、その変化のパターンには、学問分野別に顕著な違いが観察される場合が少なくないことが明らかになった。 すなわち、英国においては、1986年以来ほぼ5~6年の周期で通算7回にわたって全国レベルでの研究評価がおこなわれてきたが、回を追う毎に提出業績の中でジャーナル論文の占める比率が高くなっているのである。実際、1996年の研究評価事業では、論文の割合は6割程度に過ぎなかった。これに対し、直近の評価事業である2014年におこなわれたResearch Excellence Framework(REF)の場合にはそれが8割以上にのぼっている。また、たとえば、経営学系の分野においては、6割以下であったものが約96%にまで達している。このような現象は、選択的資源配分と不可分に結びついた研究評価のあり方が、競争原理の強化を通して研究の質を高める、という当初の目的とは別に、研究の内容に対して甚大な影響を与え、ひいては質の低下という意図せざる結果をもたらす可能性を示唆するものである。 平成27年度の研究においては、特にこの点に焦点をあてて、研究評価のパネルメンバーであった英国人研究者および研究資金管理団体の関係者等への聞き取りを通して、研究評価の政策効果と意図せざる結果に関する分析枠組みの構築につとめた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究評価の場合に限らず、何かを評価する行為というものは、評価対象の実情や「現実」をありのままに忠実に映し出す「鏡」のような役割を担うだけでなく、しばしば現実のあり方を変えていく契機になりうることは古くからよく知られてきた。評価の対象となる人々や集団、組織がより良い評価結果を目指して活動や行動のあり方を変えていくことは、たとえば試験やテストが学習成果の向上に結びつく、という例に見られるように、ポジティブな効果をもたらすこともまれではない。しかしその一方では、たとえば、試験において「山を張る」という戦略に典型的に見られるように、評価される側の対応行動が一過性の効果しか持たず、むしろ全体的なパフォーマンスの低下にいたるケースも稀ではない。同様の傾向は、いわゆる「監査社会」などと呼ばれる、評価が自己目的化したとさえ言える社会に特有の問題点として挙げられてきた。 英国における研究評価が時として様々なネガティブな結果をもたらし、功罪相半ばする面があるという点は従来から頻繁に指摘されてきたところである。平成27年度に我々がおこなった調査によってあきらかになった、研究評価事業にともなう業績刊行パターンの変化のあり方及びその学問領域による差異は、評価活動がもたらしてきた、意図せざる結果のきわめて重要な側面について、評価対象として実際に提出された刊行物のデータベースの分析を通して明らかにしたという点で大きな意義を持つものであると言えるだろう。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、学術研究の発展と深化にとってより効果的な評価制度と資源配分のあり方について提案していくことを、その最終的な目的としている。その目的の達成を目指して、平成28年度以降は、一方では英国の事情についてさらに詳細な分析を進めるとともに、他方では、近年日本でも顕著になってきた、世界レベルでの大学ランキングの向上を至上命題とするかのような傾向を含む、大学評価の動向との関連について分析していくことを想定している。 具体的には、英国に関しては、2014年のREFのデータを中心にして、研究評価をめぐる学問分野別の対応の違いの背景、またそれが学術研究の方法や内容(研究課題の選択を含む)、全体的な研究水準に対して与えた影響について、自然科学を含む数分野の下位領域における評価対象の研究業績の構成比に見られる変化に関する数量的分析とそれぞれの大学の研究担当ディレクターへの聞き取りを通して明らかにしていく。 日本においては、英国について検討を加えた学問分野に相当する領域に焦点を絞り、以下の点を中心にして検討を進めていく--機関評価及び競争的資金の審査基準における各種研究業績の相対的比重、各領域のジャーナルにおける査読制度の運用実態、英文誌創刊ないし英文投稿枠導入の経緯等。また、特に国立大学については、新たな評価基準の基本的な性格及びそれに対する各大学の対応状況について、公的文書の分析と政策決定に関わった関係者への聞き取りを通して明らかにしていく。 以上の検討を進めていく上で特に注目するのは、研究政策の立案と実行(implementation)が実際にどのような組織レベルの意思決定プロセスを経てなされていくか、というポイントである。これは、本研究の成果をもとにして最終的により効果的な評価モデルを策定していく際には、特に重要なポイントになると思われる。
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