2015 Fiscal Year Annual Research Report
津波被災地におけるビジュアライズ技術を活用した農地集積の合意形成に関する研究
Project/Area Number |
15H04559
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
福與 徳文 茨城大学, 農学部, 教授 (30414436)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
重岡 徹 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門, 上級研究員 (40527024)
八木 洋憲 東京大学, 農学生命科学研究科, 准教授 (80360387)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 農業経済 / 地理情報システム / 復興計画 / 合意形成 / 農地集積 |
Outline of Annual Research Achievements |
津波被災地における農地集積や農業水利施設の維持管理といった経済・社会面(ソフト面)の復興計画づくりのための「ビジュアライズ技術を活用した合意形成手法の開発」にむけて、平成27年度は、宮城県七ヶ浜町の津波被災地を対象に、復興計画づくりのワークショップ・プログラムをデザインし、実際に被災農家に対して実施し、その効果を検証するという社会実験的な方法により以下を明らかにした。 1.七ヶ浜町の水田経営農家にアンケートを実施し、そこから取得した経営データや、圃場間の移動距離などから、農地集積に関する最適化シミュレーションを行い、農地の団地化、農業機械の保有と利用、品種選定、冬場の仕事などが、津波被災地の水田経営の農地集積の課題であることを明らかにした。 2.VIMS(農地基盤地理情報システム)に、七ヶ浜町の農地情報を搭載し、所有者ごとの農地分散状況、利用者ごとの農地分散状況、水路網や用水掛かり農地などを被災農家にわかりやすくビジュアラズできるようにデザインし、ワークショップの現場で、被災住民に提示することにより、農地利用状況に対する「理解」が促進されることを明らかにした。 3.被災農家が参加し、VIMS(農地基盤地理情報システム)上の農地情報や、農地集積に関する最適化シミュレーション結果を提示しながら、今後の農地集積や農業水利施設の維持管理に関して話し合うワークショップ・プログラムをデザインし、七ヶ浜町において担い手農家を対象に2回(2015年12月、2016年3月)実施した。その中で、被災農家の復興計画づくりへの意欲が高まることが確認され、本年度デザインしたワークショップ・プログラムに被災農家の内発性を引き出す効果のあることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「おおむね順調に進展している」と判断した理由は、以下の3点である。 1.本研究は、津波被災地の担い手農家などを対象にワークショップを実施し、その効果を検証するという社会実験的な手法を用いることが第一の特徴である。このため、研究協力していただける被災地域を選定できるかどうかが本研究の成否の鍵を握っていた。しかし研究代表者らが今まで農地復興計画づくり(ハード面の復興計画策定)の支援を行ってきた宮城県七ヶ浜町土地改良区の組合員に協力を得ることができたため、社会実験的研究のスタートを順調にきることができた。今までの支援が被災地住民から評価され信頼を得ていたことと、ハード面での復興事業が一定程度進捗し、ソフト面での復興計画づくりの局面に入った時期を見極めることができたことが、研究対象現地の選定に成功した要因となった。 2.本研究の第二の特徴は、農地情報を地理情報システムに搭載し、被災農家でも理解しやすいビジュアライズ技術としてデザインすることであるが、被災地の農地情報を入手できるかどうかが、この技術を現地実証するための鍵を握っていた。七ヶ浜町の農地情報については、地理情報システムに搭載できる形式で入手できたため、速やかにビジュアライズすることが可能であった。ただし入手できた農地情報は被災前のデータである。今後、復興後の農地情報を、復興事業の設計データに基づいて作成していくことが課題として残った。 3.本研究の第三の特徴は、被災農家から経営に関するデータを入手して、最適化のシミュレーションを実施し、その結果を被災農家に提示して、そのフィードバックを次のシミュレーションに活かす点にある。七ヶ浜町で2回実施したワークショップに合わせて、水田経営に関するアンケートを2回実施でき、データ収集、フィードバックも順調である。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究をより推進させるために、今後、被災地農家や自治体職員と連携して、以下の3つの課題に取り組む。 1.数理計画法により、対象地域の担い手農家の農地集積戦略を加味した合理的農地利用に関するシミュレーションと、新たな水利施設維持管理システムに関するシミュレーションを実施し、その結果を課題2に引き渡す。前者は地域の農業所得の最大化を、後者は地域の維持管理労力の最小化をはかるための農地利用、地代、水利費、人的資源の配置などを明らかにする。 2.復興後の農地情報を地理情報システムに搭載できる情報として変換した上で、課題1の最適化シミュレーション結果や、現況の土地所有や利用状況をVIMS(農地基盤地理情報システム)上に搭載し、被災農家の理解を促進するためのビジュアライズ手法を開発し、課題3のワークショップのプログラムに取り込み、ワークショップにおける被災農家の反応(会場での様子、アンケートなど)からその効果を検証し、VIMSのビジュアライズ機能の改良をはかる。 3.理解しやすくビジュアライズした数理計画法による最適化のためのシミュレーション結果を被災農家に提示しながら、農地集積や農業水利施設の維持管理システム構築のための計画づくりワークショップを実施する。ここでは計量モデルによる最適解を被災農家に押しつけるのではなく、被災農家相互の議論を活発にする触媒としてシミュレーション結果(最適解)を用いる。被災住民によって話し合いを行った結果(納得解)を、課題1、課題2にフィードバックする。
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Research Products
(12 results)