2016 Fiscal Year Annual Research Report
Control of freezing of water at subzero temperatures in woody plant cells
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15H04615
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
荒川 圭太 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (00241381)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福士 幸治 北海道大学, 農学研究院, 准教授 (60218906)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | 氷核タンパク質 / ポリフェノール / 過冷却 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、過冷却促進ポリフェノール類が氷核物質による水溶液の凍結を阻害するメカニズムを明らかにするため、過冷却促進ポリフェノールと並行して氷核物質についても理解を深め、両者の相互作用について検証することを主目的とした。そのため、氷核細菌Erwinia ananasから単離したinaA遺伝子にヒスチジンタグを付して大腸菌で発現させた組換え氷核タンパク質His-inaAを用いたモデル実験系を構築し、過冷却促進ポリフェノールがHis-inaAの氷核活性を抑制して水の不凍化メカニズムの解明を目指す。 これまでの研究では、大腸菌のタンパク質発現系で組換え氷核タンパク質(His-inaA)を合成させ、組換え大腸菌株に氷核活性を付与することを示した。そこでH28年度には、組換え大腸菌抽出物からHis-inaAを単離することを試みた。His-inaAを効率良く精製するために、組換え大腸菌抽出物を粗分画して氷核活性の分布を調べた。His-inaAを発現させた大腸菌を超音波破砕して得られた細胞抽出液を可溶性画分、膜画分、封入体画分に分画したところ、全ての画分で比較的高い氷点下温度で凍結することがわかった。このことから、いずれの画分にもHis-inaAが存在することが示唆された。そこで、Niイオンによる金属アフィニティカラムを用いて可溶性画分からHis-inaAを精製すると、十分な氷核活性を示す画分が回収できた。この氷核活性は過冷却促進ポリフェノールによって活性阻害を受けたことから、可溶性の氷核物質として機能することが明らかになった。 上記の結果から、氷核物質として可溶性のHis-inaAを用いることで、過冷却促進ポリフェノールとの相互作用の有無を検証するための実験の目途が立ったといえる。しかし、実験系を利用するにはもう少し条件検討をおこなう必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
本研究では、氷核細菌E. ananas由来の氷核タンパク質inaAの組換えタンパク質His-inaAを利用してモデル実験系を構築し、過冷却物質と氷核物質との相互作用の可能性を検証することを目指した。 これまでは、過冷却促進ポリフェノール類の活性測定に氷核細菌を分画せずに用いてきたが、ポリフェノールとの相互作用の有無を検証するためには、氷核タンパク質分子を用いる方が解析には都合がよいと判断した。そのため、組換えタンパク質His-inaAを菌体の粗抽出液からアフィニティカラムで精製したところ、活性画分を調製でき、過冷却促進ポリフェノールによる活性阻害効果も実証できた。しかし、氷核活性の阻害効果はまだ十分には大きくなく、収量も高くないので、精製や活性測定に関する条件検討がもう少し必要な段階といえる。これらの条件検討をクリアすれば、過冷却促進ポリフェノールとHis-inaAとの相互作用や抗体を用いた実験などが検討可能となる見込みである。 また、樹木の木部柔細胞で観察される凍結挙動である深過冷却機構の解明に関わる研究として、様々な植物種から過冷却促進活性の検出やその活性物質の性質についても調べてきた。それによって、いくつかの植物種では粗抽出液でも十分な過冷却促進活性を示すことが明らかになるなど、一定の成果を挙げられたので、応用研究の基盤整備が進みつつある。今後は、これらの過冷却促進活性画分を効率よく利用するような実験も試行していきたい。
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Strategy for Future Research Activity |
今年度は、組換え氷核タンパク質His-inaAと過冷却促進ポリフェノールとの相互作用の有無を検証するための実験系を構築して、それを検証したい。そのために必要な実験として、例えば、1)効率よく可溶性His-inaA画分を調製する方法の確立、2)氷核物質としての可溶性His-inaAの諸性質について明らかにすること、を主たる目標の一部とする。なかでも、氷核活性の濃度依存性や水溶液の容量に対する活性への影響などを調べるほか、過冷却促進ポリフェノールによる氷核活性阻害の条件等についても詳しく調べることで、氷核活性や過冷却促進活性の測定環境を整備したい。これによって適切な実験条件を設定して実験系の効率化を図る。 その後、熱分析法などを用いて、inaAの氷晶形成ドメインに対する抗体を用い、His-inaAの氷核活性における氷核形成ドメインの重要性を検証する試みや過冷却活性ポリフェノールとHis-inaAとの相互作用の有無の検証なども行っていく予定である。これらの実験を通じて、氷核物質による水溶液の凍結(不均質核生成)を過冷却促進ポリフェノールが阻害することで引き起こされる水の不凍化メカニズムの解明に寄与できよう努力する。 また、樹木の木部柔細胞の凍結挙動である深過冷却機構の解明にも関わる研究についても継続し、安定的に過冷却する仕組みや過冷却活性の応用研究の基盤整備を進めていく予定である。なかでも、十分な過冷却促進活性が検出された資源植物の粗抽出液を有効利用するような実験について、時間の許す限り実施していくつもりである。
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Research Products
(9 results)
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[Presentation] 形質転換樹木の超低温保存技術に関する基礎研究2016
Author(s)
川村浩平、嘉見大助、鈴木伸吾、田中大介、遠藤圭太、山岸祐介、荒川圭太
Organizer
Cryopreservation Conference 2016
Place of Presentation
自然科学研究機構・岡崎コンファレンスセンター(愛知県・岡崎市)
Year and Date
2016-11-10 – 2016-11-11
Invited
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