2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15H05499
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
中野 匡規 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 講師 (70592228)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 表面・界面物性 / 電界効果 / 強相関エレクトロニクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、モット絶縁体に代表される強相関物質の協同的な相転移現象を利用した、新しい相転移デバイスの実現を目指している。特に、強相関物質に特徴的な相競合状態に着目し、伝導チャネル長をサブミクロン以下のスケールに微小化したナノデバイスの電界効果特性を検討することで、バルクスケールのデバイスでは得られない新物性・新機能を実現することを目指している。 本年度はまず、電子線描画装置を用いた酸化物薄膜の微細化プロセスの確立を行った。モデルケースとしてまずはVO2薄膜を対象にプロセスの最適化を行い、薄膜の物性を損なわずにチャネル長をサブミクロン以下のスケールに微小化する手順を確立した。その後、そのようなVO2ナノデバイスの電界効果特性のチャネル長依存性を検討し、予備的ではあるが、チャネル長の減少と共にトランジスタ動作の閾値電圧が減少するという結果を得た。 電子線描画装置を用いた微細化プロセスの確立と並行して、銅酸化物高温超伝導体の薄膜作製に着手した。これは、当初計画では次年度に取り組む予定であった「他の物質系への展開」の一部に前倒しで取り組むものであり、薄膜作製条件の最適化などにかかる時間を見越した措置である。薄膜の作製手法としては、多元系酸化物薄膜の作製に適したパルスレーザー堆積法を選択した。そして、パルスレーザーのエネルギー密度や薄膜の成長速度、あるいは薄膜作製時の基板温度や酸素分圧、製膜後の熱処理条件など、様々なパラメーターを最適化することで、既報とほぼ同じ超伝導転移温度を示す薄膜を作製することに成功した。さらに、そのような条件で作製した試料を用いて、まずは0.1 mm程度のチャネル長を持つ比較的大きなデバイスを作製し、電界効果特性を検討したところ、電圧によって超伝導転移温度を大きく制御可能であることがわかった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
本研究の大きな目的は、複数の電子相が競合した強相関物質をナノスケールに微小化することで、バルクスケールでは得られない物性や機能を実現することである。そのためには電子線描画装置を用いて試料を微細化する必要があり、当初の計画では、本年度はこの微細化プロセスの確立に大幅な時間を割く予定であった。しかしながら、実際にはプロセスの最適化が予想外に早く進み、本年度の段階でプロセスの確立のみならず、VO2の電界効果物性のチャネル長依存性に関する予備的なデータを取得するまでに至っており、当初計画よりも進展していると言える。また、当初は次年度に取り組む予定であった他の物質系への展開にも既に着手しており、銅酸化物高温超伝導体薄膜の作製条件を最適化した上で、電圧による超伝導物性の制御を実現するまでに至っている。これも本研究が当初計画よりも進展していると考える理由である。さらに、当初はまったく想定していなかった成果として、分極性分子を用いたVO2の相転移制御にも成功した。これは電界効果デバイスとは異なるが、双極子モーメントの異なる有機分子をVO2薄膜表面に物理吸着させることでVO2薄膜の金属・絶縁体転移温度を系統的に制御可能であることを示せており、応用上重要なだけでなく、VO2トランジスタの動作機構を明らかにする上でも極めて重要な成果である。以上のように、本年度は当初の想定を大きく上回る進展が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度に得られた知見をベースに、次年度は主にナノスケール領域での電界効果物性の評価に注力する。VO2や銅酸化物高温超伝導体などの強相関酸化物の薄膜試料上にチャネル長が異なるデバイスを複数個作製し、電界効果物性のサイズ効果を系統的かつ定量的に評価する。また、その膜厚依存性の評価を通して、協同的な電場誘起相転移が起こる長さスケールを定量的に評価する。さらには、そのようなナノデバイスを対象に、バルクスケールの薄膜を用いた電界効果デバイスでは得られない新物性・新機能の実現を目指す。具体的には、VO2における電子ドープ側での電場誘起超伝導の実現や、マクロなデバイスでは不可能であった正孔ドープ側での電場誘起相転移の実現などを目指し、銅酸化物ナノデバイスでは超伝導転移温度の上昇や両極性超伝導の実現などを目指す。
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Research Products
(6 results)
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[Journal Article] Distinct substrate effect on the reversibility of the metal-insulator transitions in electrolyte-gated VO2 thin films2015
Author(s)
M. Nakano, D. Okuyama, K. Shibuya, M. Mizumaki, H. Ohsumi, M. Yoshida, M. Takata, M. Kawasaki, Y. Tokura, T. Arima, Y. Iwasa
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Journal Title
Advanced Electronic Materials
Volume: 1
Pages: 1500093-1-7
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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