2015 Fiscal Year Annual Research Report
葉緑体Stromuleの細胞内3次元構造の構築と塩ストレス耐性との関連性の解明
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15H05613
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Research Institution | Kinki University |
Principal Investigator |
山根 浩二 近畿大学, 農学部, 講師 (50580859)
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Project Period (FY) |
2015-04-01 – 2018-03-31
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Keywords | イネ / 塩ストレス / 葉緑体 / 電子顕微鏡 / FIB-SEM |
Outline of Annual Research Achievements |
(1) FIB-SEMによる観察 これまでにFIB-SEMで報告されてきた主な試料は、動物の組織片であり、観察時に方向性に決まりがなく、FIBによる切削もランダムに切ればよいものが多かった。しかし、今回はイネの葉を一般的な横断切片と同じ方向性を保ってFIBで切削する必要があったので、試料台への取り付けとトリミングを工夫し、ブロック中の葉切片がFIBに対して直角に入るようにセッティングした。これまで、SEMによるブロック表面観察には、樹脂包埋前に酢酸ウランや鉛染色液によるブロック染色を施す必要があるとされてきたが、本研究で使用したFIB-SEMは、FIBとSEMが直行配置になっており、電子染色の弱い試料でも観察できるように改良されていた。そのため、ブロック染色を施さずに、固定時に用いるオスミウム染色のみで良質な画像を得ることができた。 本年度は、対照条件で水耕栽培したイネ葉肉細胞を観察し、立体像の構築を行った。ペイントツールSAIで目的の画像をトレースし、AVIZOで立体像を構築する方法が最も効率的な手法であった。この手法を用いて、FIB-SEMで取得した200枚程度のイネ葉肉細胞の平面像から立体像を構築し、葉肉細胞の右腕構造を3次元的に明らかにした。 (2) TEMによる観察 ウルトラミクロトームを用いて40枚前後の連続切片を作成し、塩ストレス下で葉緑体が形成するオルガネラ陥入構造を観察した。70個の葉緑体陥入構造を含む葉緑体を連続切片で観察したところ、陥入構造に含まれるオルガネラの半分がミトコンドリアであった。ペルオキシソームだけが取り囲まれている構造が8個、ミトコンドリアとペルオキシソーム両方が取り囲まれている構造も8個観察できた。陥入構造に含まれるオルガネラの多くはミトコンドリアとペルオキシソームに関係しており、塩ストレス下における両者の強い結びつきが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
FIB-SEMを用いたこれまでの研究では、動物組織が主に用いられており、植物を用いた観察例はほとんど存在しない。そのため、その手法も十分に検討されておらず、方法論の確立に時間を要することが予想された。とくに、動物組織を用いた研究で行われているブロック染色を検討する必要があることが予想され、時間を要することが懸念された。しかし、本研究において、植物組織では固定時のオスミウム染色だけで良質な画像を取得できることが明らかとなり、ブロック染色の必要がないことが明らかになった。そのため、固定や観察手法の確立が大幅に削減され、研究を効率的かつ迅速に進展させることができた。FIB-SEMによって迅速に良質な連続画像を取得することができたため、続く作業である画像トレースや立体像の構築の手法も確立することができた。そのため、FIB-SEMを用いた研究は順調に研究が進展した。 TEMを用いた観察研究においては、連続切片を作成する必要があったため、難航することが予想された。これまでも、いくつかの研究で連続切片を作成してTEMで観察する手法が行われてきたが、多量の連続切片の取得には多くの時間と労力が必要であることが懸念されていた。しかし、葉緑体の陥入構造を含む部分のみだけであれば、多くても40枚ほどの連続切片があれば十分であることが明らかとなり、作業に必要な時間と労力が大幅に節約できた。そのため、70個のオルガネラを含む葉緑体陥入構造の観察像を取得することができ、取り囲まれるオルガネラを分類することができた。 以上のことから、予定していた研究を十分に遂行することができ、「おおむね順調に進展している」とした。
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Strategy for Future Research Activity |
(1) FIB-SEMとTEMによる観察 昨年度確立した観察手法を用いて、葉緑体陥入構造を形成している葉緑体の全体像を観察する。イネの葉緑体はおよそ5000 nm程度と考えられるため、50 nmおきに試料を切削すると、約100枚の葉緑体像が取得できると予想される。その画像データを用いて葉緑体をトレースし、AVIZOを用いて葉緑体全体の立体像を構築する。 FIB-SEMデータと同様に、TEM観察で得られた70個の葉緑体陥入構造の画像データを用いてトレースを行い、AVIZOを用いて陥入構造の立体像を構築する。得られた立体構造から、葉緑体陥入構造を3次元的に明らかにしていく。 (2) 陥入構造形成の条件検討 塩ストレスは、過剰な塩によるイオンストレスだけではなく、高浸透圧ストレスも引き起こすため、葉緑体の構造変化は、イオンストレスによるものなのか、浸透圧ストレスによるものなのか、明らかにされていない。今年度は、100 mMのNaClと等浸透圧のPEGストレスをイネに処理し、両者の構造変化を比較することで、葉緑体陥入構造の形成に強く関与するストレス要因を明らかにする。さらに、塩ストレスと浸透圧ストレスで取り囲まれるオルガネラを調べ、両ストレスで違いがあるかを明らかにする。 さらに、二次元イメージング・クロロフィル蛍光測定装置を用いて、塩ストレス下における葉緑体内のエネルギー状態に関するデータを取得し、様々なエネルギー状態を示す部位を固定してTEMで観察し、陥入構造形成と葉緑体内のエネルギー状態との関係を調べる。用いる指標としては、クロロフィル蛍光の最大量子収率を示すFv/Fm値、熱放散を示すNPQ値、光化学的消光を示すqp値を候補として検討する。
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Research Products
(2 results)