2015 Fiscal Year Annual Research Report
神経幹細胞の分化運命を決める統合的メカニズムの解明
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15H05773
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
後藤 由季子 東京大学, 大学院薬学系研究科(薬学部), 教授 (70252525)
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Project Period (FY) |
2015-05-29 – 2020-03-31
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Keywords | 幹細胞生物学・再生・修復 / クロマチン制御 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々はこれまでに、ポリコーム群因子(PcG)が大脳皮質発生の後期においてニューロン分化誘導遺伝子群のクロマチンを抑制状態にし、ニューロン分化期を終了させること、HMGAタンパク質がニューロン分化期における神経幹細胞のニューロン分化誘導能に必須である事、を報告した。しかし、いかにしてポリコーム群因子が大脳新皮質の発生時期依存的にニューロン分化を抑制できるのか、またHMGAタンパク質がニューロン分化能を促進できるのか、は不明であった。本研究において我々は、ニューロン分化誘導遺伝子座におけるポリコーム群因子依存的ヒストン修飾の拡大がHMGAタンパク質により抑制されているという結果を得た。
脳のほとんどの領域において生後神経幹細胞は消滅するが、成体期になっても一部の脳領域においてのみ生涯ニューロンを産生し続ける神経幹細胞が存在することが知られている。そのような成体神経幹細胞が発生過程でどのように形成されるかは不明であったが、我々は以前に、胎生期において「分裂を停止した神経幹細胞」が長期維持されて成体神経幹細胞になることを見出した。本研究において、この胎生期において分裂を停止した神経幹細胞群がいかなる性質を持つかを検討し、いくつか特徴的な遺伝子の発現を見出した。また、胎生期において「分裂を停止した神経幹細胞」の一細胞解析を行い、クラスタリングによって成体神経幹細胞と類似の転写パターンを示す細胞群を同定した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
各発生段階の神経幹細胞を単離し、ポリコーム群因子依存的ヒストン修飾H3K27me3のChIP-seqを行ったところ、発生早期のニューロン分化期においても(転写発現しているにも関わらず)既にH3K27me3がターゲット遺伝子座の上流に局在していることを見出した。そして、発生後期のグリア分化期になるとH3K27me3ドメインが拡大しポリコーム群因子ターゲットの発現が抑制されることが分かった。そこで、H3K27me3ドメインの拡大を決めるメカニズムが、ニューロン分化期の終了タイミングを決める主要なメカニズムであるといえる。我々は発生早期においてH3K27me3ドメインの拡大を止めている因子を調べるためH3K27me3ドメインの両端DNA配列に注目したところ、AT-rich配列が濃縮していることを見出した。そこでAT-rich配列に結合するHMGAタンパク質について注目したところ、発生早期神経幹細胞においてはHMGA2が(ニューロン分化誘導遺伝子近傍領域において)H3K27me3ドメインの両端に結合する事、発生後期になるとHMGA2の結合が減少することを見出した。このことは、HMGA2がポリコーム群因子の拡大を防ぎ、ニューロン分化遺伝子の発現を発生早期に維持しているという可能性を示唆する。
胎生期において「分裂を停止した神経幹細胞群」を大脳基底核より単離し、「分裂の早い神経幹細胞群」と比較した。トランスクリプトーム並びにプロテオームにおいて多くの違いが多く観察された。更に胎生期において「分裂を停止した神経幹細胞群」が均一の細胞集団なのか、異なる細胞集団から成るのかを調べるために、一細胞解析を行った。その結果、トランスクリプトームに基づくクラスター解析により、複数の異なる細胞集団が得られた。
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Strategy for Future Research Activity |
(1)大脳皮質神経幹細胞におけるPcGターゲットの発生時期依存的・遺伝子座特異的な抑制メカニズムを調べる。「発生後期にはHMGAが消失することによりPcGドメインが拡大し、ニューロン分化関連遺伝子の抑制が起こる」という仮説の検証を以下の実験により行う。時期依存的なPcGとHMGAの相互作用をゲノムワイドに調べるため、HMGA1とHMGA2のChIP-seqを早期神経幹細胞ならびに後期神経幹細胞において行う。その際に、H3K27me3のChIP-seqを同様のサンプルで行い、結合をゲノムワイドに比較する。また、HMGA1, A2の条件的ノックアウトマウスおよび過剰発現マウスの作製を行う。更に、HMGA2結合が見られたシス配列の変異マウスの作製を試みる。なぜPcGドメインがニューロン分化期において既に特定の遺伝子座の上流のみに存在するのかを明らかにするために、ニューロン分化期よりも更に発生時期を遡り、胎生8日目から10日目大脳新皮質神経幹細胞の中でのPcGドメインの形成起点を探る。 (2)胎生期の「成体神経幹細胞の起源細胞」における分化能制御メカニズムを調べる。この起源細胞群とその他の胎生期神経幹細胞を比較し、「時期依存的な運命転換」を可能にする分子基盤の解明を目指す。その為にそれぞれの細胞群の分画方法を確立し、一細胞解析を行ったので、遺伝子発現プロファイルの比較を行う。特に差のある遺伝子群について、in vivoでの発現パターンと機能の検討を行う。
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Research Products
(23 results)