2015 Fiscal Year Annual Research Report
細菌における生体膜の不均一性を生み出すアシル基転移酵素の研究
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15H06328
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
小川 拓哉 京都大学, 化学研究所, 助教 (40756318)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | リン脂質アシル基転移酵素 / PlsC / グリセロリン脂質 / 色素 |
Outline of Annual Research Achievements |
低温性細菌Shewanella livingstonensis Ac10は、リン脂質合成酵素の1種である1-アシル-sn-グリセロール-3-リン酸アシル基転移酵素 (PlsC) のホモログ酵素を5つもつ (PlsC1-PlsC5)。それらの機能分担により細胞膜リン脂質の構造多様性が生み出されるとの考えのもと、各ホモログ酵素の機能解析を行った。まず、PlsC1について大腸菌を宿主とした異種発現系を構築し、組換え酵素の可溶化および精製の手順を確立した。in vitroでのアッセイの結果、本組換え酵素が精製後も活性を維持していることを見出し、さらに至適反応条件や基質選択性といった詳細な特性を明らかにした。PlsCのホモログ酵素は微生物だけでなくヒトを含む高等生物にまで広く見出されるが、どの生物種からも過去に活性を保ったまま精製された例がなかった。本研究成果は活性を保ったまま精製に成功した初めての例であり、今後、ヒト酵素などへ適用できる可能性が期待される。 また、PlsC3については遺伝子破壊により酵素機能を解析した。pKNOCKベクターを用いてplsC3遺伝子を破壊した欠損株を作製したところ、野生株の菌体がピンク~橙色であるのに対し、欠損株は黄色であった。脂質を抽出しTLC分析および質量分析を行った結果、リン脂質組成に大きな変化は見られなかったが、欠損株に黄色を呈する脂質成分が蓄積していることを見出した。ゲノム比較により得られた知見から、この黄色脂質は共役ポリエン構造をもつことが示唆され、このことと一致してplsC3欠損株は野生株と比べて高い抗酸化能を示した。以上のことから、PlsC3はリン脂質ではなく、色素生産に関わる新奇機能をもつことが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初に計画していたとおり、PlsC1の精製および特性評価をすることができた。特に、これまでに報告例のなかったPlsCの精製に成功したことは非常に有意義であり、後述する未同定の反応機構解析に研究を進めることが可能になった。PlsC1の基質に対する親和性が予想以上に高く、アッセイ系の検出限界の問題のために速度論パラメータを求めることができなかったため、今後、より高感度な定量方法を検討するなどして改善する必要がある。 当初に計画していた、ランダム変異導入によるPlsC4の基質認識機構の解明は、予想以上に初期条件設定に時間がかかり、目的の変異型酵素を取得するに至らなかった。一方、S. livingstonensis Ac10由来の別のPlsCホモログであるPlsC3について機能解析を行い、色素生産というPlsCの機能として新しいはたらきを発見することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでにPlsCは活性を保ったかたちで精製されたことがないため、キネティクスや立体構造といった酵素反応機構を理解するうえで不可欠な知見が不足していた。そこで、本研究で確立した精製方法に基づき、微生物や高等生物由来の他のPlsCホモログに研究を展開するとともに、変異解析などを通して未同定の触媒メカニズムを解析する予定である。この際、放射性同位体標識した基質を使うなどして定量方法の高感度化を目指す。また、本精製方法で得られるPlsCは比較的収量が良く、この利点を生かして、共同研究により立体構造解析にも研究を展開する。
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Research Products
(4 results)