2015 Fiscal Year Annual Research Report
シュティフターとシュトルムの文学における「障がい児」像
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15H06725
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Research Institution | Otani University |
Principal Investigator |
藤原 美沙 大谷大学, 文学部, 助教 (20760044)
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Project Period (FY) |
2015-08-28 – 2017-03-31
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Keywords | シュティフター / 詩的リアリズム / ドイツロマン主義 / 子ども / 障がい児 / 障がい |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究はドイツ語圏詩的リアリズムの作家アーダルベルト・シュティフターとテオドア・シュトルムの文学に登場する「障がい児」像を考察することで、ドイツロマン主義から詩的リアリズムにかけての「子ども」像の連続性を明らかにすることを目的としている。 平成27年度は研究実施計画で予定したとおり、シュティフターの『電気石』を考察対象として研究を進めた。本作に登場する「少女」の「大きな頭部」と「理解不能な言語」が、現実社会においては正常な発達過程からの逸脱として捉えられ療育対象となると同時に、まさにこの身体的・精神的「障がい」によって、文学表象としての「永遠の子ども」が形成されていることを、ロマン主義的「子ども」像解釈と関連づけて研究した。これらの研究成果は、2015年12月13日に開催された日本独文学会阪神ドイツ文学会第219回研究発表会で発表し、「障がい児」である少女を介して、これまで狂気の世界と断定されてきた父親の精神世界が、理解しえないものへと昇華され、また疑似的に救済されていることを明らかにした。口頭発表の内容に加筆修正した研究成果は、2016年発行予定の『西洋文学研究』第36号に投稿中である。 さらに、シュティフターの初期作品『アプディアス』における盲目の少女ディータに関しても、父親であるアプディアスと絡めて研究を進めることができた。ディータが生まれながらにもつ「障がい」の治癒方法を求めて奔走し、万策尽きると彼女の生存のために全財産を託すことに腐心するアプディアスには、貨幣という客観的尺度が媒介することで成立する、等価交換原理が投影されていること、また、それらを仮象のものとして無に帰す自然の摂理が、ディータの障がいを介してあらわれていることを分析した。これらの研究成果は2016年10月の日本独文学会秋季研究発表会でのシンポジウムで発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初の予定どおり、シュティフターの『電気石』に見られるロマン主義的傾向とその歪みについて検証し、成果をあげることができたため。また、日本独文学会阪神ドイツ文学会での口頭発表では、聴衆から一定の評価を受けただけでなく、それを機に同様の関心を持つ研究者によるシンポジウム企画へとつなげることができたため。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は、シュティフターの『電気石』、『アプディアス』と関連づけながら、シュトルムの『白馬の騎手』について、以下の二点に焦点を当てて研究を進めていく。 1. 発達障がい児ヴィーンケの、自然や動物の意思に対する直感力や、周囲に彼岸を想起させる言動に着目し、ロマン主義的「子ども」像との共通点と差異を分析する。 2. 希薄な感情や言語能力の欠如などを「障がい」と見なす社会的基準について検証し、文学表象としての「障がい児」像を創出する背景を明確にする。
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Research Products
(1 results)