2015 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J00018
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒谷 雄司 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 流動誘起不安定化 / 境界条件 / 相分離 / 破壊 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、ソフトマターの重要なカテゴリーの一つである粘度が大きい(レイノルズ数が小さい)粘性流体に着目し、粘性流体が固体境界壁に挟まって流れる時に流体中で起こる密度不安定化現象を主にシミュレーションを用いて調べ、その結果以下の事が判った。 (1)静止流でさえ固体境界壁近傍では熱揺らぎに由来する流体の密度揺らぎがバルクよりも大きい。これはバルクよりも境界壁近傍で密度不安定化が起こりやすいことを意味する。 (2)流体の粘性率が密度に依存する場合、せん断流下では流体のせん断率にほぼ比例して有効圧縮率の逆数が減少し、密度不安定化が更に起こりやすくなる事が判った。これは以前より知られている流動誘起不安定化機構と定性的には同じ機構に基づく現象と理解出来る。 (3)上記(1),(2)よりせん断流下の流体の密度不安定化は境界壁近傍で最も起こりやすい事が結論できる。従って、液体中に気体が過飽和に含まれている流体にせん断流を印加すると、密度不安定化に伴い境界壁近傍で気泡が容易に生成する。その結果、境界壁近傍での流体のせん断率が局所的に減少し、流体が見かけ上スリップする。すなわち流体力学の黎明期から用いられた非自明な仮定であるno-slip境界条件が見かけ上破れる。近年no-slip境界条件が破れることは実験的に確認されており、本研究はその実験事実に対する理論的な説明となる可能性がある。 以上の研究成果について口頭及びポスター発表した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
粘性流体で何故no-slip境界条件が破れるかは重要な問題であるが、その機構についてはこれまで十分理解されていない。本年度の研究成果は、流体に気体がよく溶けている場合に流体がスリップしやすい等の実験結果を自然に説明することができ、新しく意義のある成果と言える。 また、流動誘起不安定化はNavier-Stokes方程式に従う粘性流体だけでなく高分子溶液や線形粘弾性体等の多くのソフトマターでも現れる重要な物理機構であるが、これまでの研究では境界壁の影響は十分考察されていなかった。本年度の研究は、ソフトマターの破壊・不安定化現象に対して境界条件が本質的に重要であることを示したという意味で意義がある。
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Strategy for Future Research Activity |
まず、27年度中に実施した上記研究内容については学会誌への投稿を行う予定である。 また本研究の最終目標は粘弾性体に対する破壊機構解明であり、当初の予定では28年度はその実験的な研究を行う予定であった。しかし、現時点では実験的研究よりも理論・シミュレーション研究のほうが意義のある成果を得られる可能性が高いと考えられるため、28年度は、27年度に実施した粘性流体に対するシミュレーションを線形粘弾性体に拡張することで、固体境界壁に挟まれた線形粘弾性体に対する破壊現象を研究する予定である。シミュレーションによる研究を行うことで、粘弾性体の破壊に於いて重要な物理機構や因子を明確化する。
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Research Products
(4 results)