2016 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00018
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
黒谷 雄司 東京大学, 工学系研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 流動誘起不安定化 / 破壊 / 粘弾性体 / 相分離 / 境界条件 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は1.粘性流体の固体境界壁近傍でのスリップ機構、及び2.粘弾性体の力学入力下での破壊機構、の2つのテーマについて研究を行った。それぞれの研究実施状況を記載する。 1.前年度からの継続テーマである粘性流体のスリップ機構に関して追加検討した。具体的には、シミュレーション結果に対する物理的解釈、及びスリップ現象に関する既存の実験結果と本シミュレーション結果との対応関係、の2点に関して検討し、自身の研究内容の位置づけを明確化した。本内容に関して、国内学会での口頭発表、及び国際学会でのポスター発表を実施した。また執筆した英語論文も、近日中に投稿予定である。 2.本特別研究テーマの主要課題であるソフトな非晶粘弾性体の破壊機構に関する研究を実施した。具体的には、粘弾性体に力学的負荷を印加した場合に生じる破壊現象を、歪み誘起不安定性と呼ぶ不安定機構を内在するモデルを用いて調べた。特に、以下の研究を実施した。 (a)粘弾性体に繰り返しせん断歪みを印加すると、その歪み振幅が小さくても、系が破壊に至る事はよく知られている。疲労破壊と呼ばれる本現象をシミュレーションにより調べ、破壊課程を評価した。その結果、せん断歪みの周波数と系の緩和時間の積によって破壊過程が異なる事を見出した。また、疲労破壊に至るために必要な歪み振幅の臨界値が存在し、その臨界値が線形安定性解析から導かれる理論値と定性的に一致することを確認した。本研究に関して、国内学会でのポスター発表及び口頭発表を実施した。 (b)また、固体境界壁間に存在する粘着剤をはく離する際の応力歪み曲線や破壊現象、及びプラスチックやゴム等を伸長した際に生じる脆性破壊や延性破壊と呼ばれる破壊現象をモデル的に表現できるシミュレーション法を開発し、それぞれの破壊課程を調べた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度実施された2種のテーマに関する成果を以降記載する。 まず、粘性流体のスリップ現象に関して、本年度実施された研究によって、固体境界壁のぬれ性が壁面での気体相形成に与える影響を含め、現実の実験状況との対応が明確化された。本成果は、本現象の機構に関する基礎的な理解を進めただけではなく、工業的な応用にも繋がり得る重要な成果と判断できる。 次に、粘弾性体の破壊現象に関しては、その重要性にも関わらず、その物理的機構の基礎的な理解が不足しているテーマである。本年度は、粗視化モデルを用い、繰り返し変形に伴う疲労破壊、引っ張り変形に伴う延性・脆性破壊について、数値シミュレーションにより研究を行い、破壊のオンセット、破壊様式について新たな知見を得ることができた。また、様々な破壊機構をほぼ同一のモデルで表現、ならびに解釈できる可能性がある事を明らかにした。このことは、破壊の物理を統一的に理解できる可能性を示唆しているという点で興味深い成果と言える。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実施状況で記載したとおり、2016年度は粘着剤の剥離過程や粘弾性体の伸長破壊過程のシミュレーション手法を構築した。そのため、2017年度は本手法を用いて粘弾性体の破壊課程の物理機構の更なる明確化に取り組む。具体的には、粘着剤の剥離や伸長破壊過程は材料のレオロジー特性によって大きく変化することが実験的によく知られているが、それをシミュレーションを用いて再現し、その機構を議論する。特に、ポアソン比や伸長レートの差異による破壊課程の物理について明確化する。また、本研究課題テーマは最終年度になるため、研究結果に対する論文化や学会発表も積極的に実施する。
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Research Products
(5 results)