2015 Fiscal Year Annual Research Report
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15J00042
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Research Institution | Nihon University |
Principal Investigator |
荒船 俊太郎 日本大学, 文理学部, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 山県有朋 / 元老 / 元老制 / 近代天皇制国家 / 日本近現代史 / 政治史 / 元勲 / 輔弼 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、一次史料(明治・大正期の古文書類)を博捜し、山県有朋の①動静②思想や政治信条③軍事・内政・外交における政策④国家ビジョン⑤人脈等を分析することにより、政界の最高実力者となった山県が天皇のアドバイザー(=元老)としていかなる政治的役割を果たしていたのか、を明らかにするものである。 平成27年度は、山県に関する史料調査を徹底して行い、活字化されていない史料情報の把握に努めた(複写・撮影)。具体的には、国立国会図書館憲政資料室等を訪れ、山県直筆の書状と書類を複写収集した(約500通、「野村靖関係文書」「井上馨関係文書等)。 第二に、明治大正期の政治家・軍人達の個人史料集(含伝記類)や先行研究の調査を進めた。具体的には、山県の書状が掲載されている史料集・専門書を複写取集(一部分を購入)した(約1000通収集、『周布公平関係文書』等)。同時に、未刊行史料の中で原本が失われ、「写本」でしか利用することができないものの把握(複写)に努めた(約100通把握、「西郷従道書翰帖」「山県有朋伝記編纂資料」等)。 第三に、小田原市立図書館(神奈川県)を訪問し、「山県公文庫」(=「山県の旧蔵書」)に遺された山県直筆の書き込みを撮影した。第四に、山県有朋記念館(栃木県矢板市)を見学し、山県の遺品についての調査を行った(同館の東京事務所にも所蔵史料に関する問い合わせを実施)。 以上の研究活動により、山県に関する史料(残存)状況を把握することができ、今後の人物研究を行っていく基盤を得ることが出来た。また、収集資料を用いたアウトリーチ活動(①古文書講座・②講演会・③大学での講義)を実施し、市民に対し研究成果の還元に努めた。かかる研究の循環サイクルを確立することにより、私自身山県の生涯やその史料に対する理解が深まり、山県を軸に「元老制」の形成・変容について分析していくための下地を整えることができた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、国立国会図書館憲政資料室・諸史料保存機関館・大学書館等に所蔵されている、山県有朋の直筆史料(総数2000点余)を一点ずつ確認し、複写・収集する作業を集中的に進めてきた。また、小田原市立図書館に所蔵されている「山県公文庫」(特別貴重資料)や山県有朋記念館(栃木県矢板市)の調査など、山県研究を進める上で欠かすことができない施設を実地に見学することができた。その結果、先述したように膨大な山県の直筆史料にアクセスすることが叶い、貴重な史料の複写・収集を効率的に進めることができた。 しかしながら、近代日本を代表する軍人・政治家である山県の関係史料は、当初の予想を遥かに超える範囲に残されており(=様々な史料群に少しずつ含まれている)、なお慎重に調査すべき史料群が少なくない。本年度も継続的な史料調査と収集(複写)に励み、山県と彼を取り巻く政治空間の復元に努めたい。 その一方で、採用時に提出した研究計画案では、第二年次に本格的な調査を予定していた、戦前の新聞紙(『朝日新聞』・『読売新聞』・『毎日新聞』等)に掲載された山県有朋に関する「社会的情報」の収集作業を旧年度中に開始することができた。同様に、戦前の総合雑誌である『太陽』・『中央公論』・『日本及日本人』『改造』等に掲載された、山県や諸元老に関する記事の複写および収集の準備も年度を前倒して着手することができた。とりわけ『太陽』については、数百ヶ所におよぶ関連記事を特定し終わり、複写・収集作業も大詰めを迎えている。 以上を総合すると、現在までの研究の進捗状況は、おおむね研究計画通りである。
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Strategy for Future Research Activity |
上記の進捗状況を踏まえ、平成28度は、当初の計画案に従って、元老としての山県有朋の政治的台頭要因を解明すべく、研究活動を継続する(研究計画の変更は想定していない)。 具体的には、これまで進めてきた史料所蔵機関(国立国会図書館憲政資料室等)における明治・大正時代の私文書史料(=山県有朋の直筆史料)の調査収集・整理分析だけでなく、公文書類(たとえば、国立公文書館や防衛省防衛研究所戦史研究センターに所蔵されている公的記録類、国会図書館で公開されている帝国議会の議事録等)の調査を進め、公私の両面から元老時代の山県の政治的軌跡を把握する。 また、そうした一次史料の調査と並行して、前年度後半から着手している、当該期を代表する新聞(『東京朝日新聞』・『読売新聞』等)や総合雑誌(『中央公論』『太陽』『日本及日本人』等)の調査を進め、山県ないし元老に関する「社会的情報」の抽出(複写・収集)に努める。 年度の後半には、これらの収集資料を整理し、「元老制」の形成とその背後にある山県の政治活動の変化(=活発化/代人による間接指導の常態化)に関する研究論文の執筆に向けた準備を進めていく。 この他、本年度も、これまでに収集した資料類を用いたアウトリーチ活動(=社会人向けの古文書講座等)を繰り返し実施し、最新の研究成果を分かりやすく市民に還元するとともに、大学の講義(非常勤講師、横浜市立大学と神奈川工科大学)においても、本研究の成果を積極的に活用していくこととしたい。
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