2015 Fiscal Year Annual Research Report
魂の実体性と個体化の解明―トマス・アクィナスにおける個としての人間のエッセ―
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15J00085
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
石田 隆太 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | トマス・アクィナス / 個体化の原理 / 質料 / 可知的質料 / 魂 / 物質 / 天使 / 神 |
Outline of Annual Research Achievements |
1、質料概念の分析として、(1)個体化の原理としての質料という概念に通常は数学の対象にのみ措定される可知的質料が含まれているという解釈を論文で発表した。(2)天使の非質料性を主張する中で、トマスが質料と物質という概念の間に一定の区別を設けているという解釈を学会発表で提示した。(1)では可知的質料という概念の内実をより深く理解する可能性を提示し、(2)では質料と物質という一見すると同じように見える概念の相違を明確化した。 2、魂論に関する研究として、(1)偽アウグスティヌス著『霊と魂について』のトマスにおける受容について、否定的受容のみならず肯定的受容も見受けられるという解釈を学会発表で提示した。(2)質料的実体である人間において、それ自体は非質料的な人間の魂の個体化にとって質料としての身体の役割が不可欠であるという解釈を論文で発表した。(1)は先行研究では全く見られなかった解釈の方向性を提示するものであり、(2)はトマスの魂論をあくまでアリストテレス主義の観点から見ようとする試みの一環である。 3、個体化の原理という概念の分析として、身体を持つような質料的実体にとって個体化の原理は質料であるのに対して、天使のような(トマスによれば)非質料的実体にとって個体化の原理は形相であり、さらに神にとっては個体化の原理は自らの存在そのものであるという図式がトマスの思想にあるという解釈を論文で発表した。この分析においては先行研究において示唆されていた解釈を原典に即して裏付ける作業が主眼となった。 4、翻訳研究として、(1)トマス著『定期討論集 霊的被造物について』の翻訳研究、(2)バウムガルテン著『形而上学』の翻訳研究(共訳)を進め、それぞれ大学紀要にその成果を発表した。とりわけ(1)は本邦初訳である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の研究実施計画においては、1、トマス・アクィナス著『定期討論集 霊的被造物について』の翻訳研究を進めること(上記「研究実績の概要」の4の(1)に対応)、2、源ないし原理という概念と質料という概念の分析(上記「研究実績の概要」の1の(1)および(2)と2の(2)に対応)、3、個体化の原理という概念をめぐる分析(上記「研究実績の概要」の3に対応)、4、偽アウグスティヌス著『霊と魂について』のトマスにおける受容の研究(上記「研究実績の概要」の2の(1)に対応)を予定していた。このようにして当初の研究実施計画の実現を達成した上で、さらに上記の「研究実績の概要」における4の(2)の研究を行うこともできた。よって、研究の進捗状況が当初の計画以上に進展していると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は個体化の原理という概念をめぐる分析をより精緻化することに取り組むとともに、本研究の基礎的作業でもある『定期討論集 霊的被造物について』の翻訳研究を可能な限りで進めていく。
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Research Products
(10 results)