2015 Fiscal Year Annual Research Report
日本における子どもの性(セクシュアリティ)の歴史研究
Project/Area Number |
15J00972
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Research Institution | The Graduate University for Advanced Studies |
Principal Investigator |
小泉 友則 総合研究大学院大学, 文化科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 子ども / 教育 / セクシュアリティ / 近代 / 近世 / 性教育 / 教育史 / 日本研究 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、社会のなかで「幼い」とされる子どもの性(セクシュアリティ)の在り方が、いかに構築されてきたのかを解明することである。そこで、本研究では近世後期-明治後期の期間に絞りこれを明らかにしていく。また、調査対象史料は教育・医学領域を選定した。幼い子どもの性の在り方を巡る認識や議論の変容過程には欧米諸国が日本にもたらした近代知の流入が深く関わっているため、調査対象となる史料は、近世後期の分析においては、儒教・仏教的文化の流れを汲む教育・医学関係書籍と、同時期の洋学関係書籍、またそれの影響を受けた教育・関係書籍となる。明治期以降には教育・医学関係書籍に加えて教育・医学分野における学術系雑誌(『教育時論』『児童研究』『教育時報』『東京医事新誌』『児科雑誌』等を分析対象とした。 平成27年度(以下、本年度)はまず、上記の史料調査を行った。その上で、研究成果として以下の3点の研究成果が得られた。 1点目は、性愛に関する事柄を知らない・理解しない子ども、という、いわゆる無垢な子ども像の歴史的変遷を追えたことである。このような子ども像は近世後期から存在し、それは明治期に姿を変えつつも教育論のなかで語られ続けていくことを明らかにした。 2点目は、現代における、幼い子どもを対象とした性教育絵本、性教育論の起原を追えたことである。こうした議論の源流は近世後期からあり、明治期においてさらにまとまった形を成し花開いていったことを明らかにした。 3点目は、上記作業の中で、「性教育論」そのものの誕生課程をこれまでの先行研究よりも詳細に明らかにできた点である。 以上の研究成果は論文化し、3点目はすでに学術雑誌『日本研究』53集(2016年5月刊行予定)に掲載が決定した。1点目は論文として提出し現在査読審査中、2点目については論文として現在執筆中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、近世後期の医学書籍・教育書と明治初期-後期における医学・教育学関係雑誌を網羅的に調査し、そのそれだけでなく研究成果物も多数提出することができたため、予想以上の進展があったと評価できる。 さらに、当初の計画では、幼い子どもの性(セクシュアリティ)に関する言説(性的好奇心・性欲、自慰、禁欲論)などの個々の特徴とその変遷を明らかにすることを中心に目標においていたが、27年度の研究成果により、この調査が「無垢な子ども像」「性教育」の歴史に大きく関わっていることを見出した。それゆえ、27年度においては、本研究がさらに意義のある研究領野に接続できたため、当初計画以上の進展をみたと言える。 もちろん、当初の研究計画である、現代に繋がる幼い子どもの性言説のありようが完成された明治後期までの議論を調査するという目的も達成された。これは27年度作成・提出・受理された個々の論文に反映されているが、今後、博士論文という形でもアウトプットしていく。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究計画としては、近世後期における儒教・仏教的文化の流れを汲む教育・医学関係書籍と、同時期の洋学関係書籍、またそれの影響を受けた教育・関係書籍、明治期における教育・医学関係書籍・学術系雑誌のなかから、さらに分析史料を追加することで研究の精緻化をはかる。近世後期においては、分析対象とする史料集成の追加、明治期以降については分析する雑誌の追加を行い、より正確な議論が可能になるように調査する。 とはいえ、近世後期-明治後期の幼い子どもの性(セクシュアリティ)に関する議論の調査は順調に進めることができているゆえ、今後は大正期にみられる言説も限定的に調査していきたい。大正期以降はそれまでの社会よりも分析対象となる雑誌の数や書籍数が増大するため、明治期以降の言説の変遷のありようを簡単に指摘できる程度に調査をしていく。具体的には、本研究と関連性の深い言説を展開する書籍や雑誌(『児童研究』『人性』等)のみに分析対象を絞り、今後の展望を見定めていく。 何より今後は、博士論文執筆のためにまとまったアウトプット作業に集中していく。もっとも、前年度の調査結果に関する論文を現在執筆中でもあるため、これを集中して完遂させた後、博士論文執筆に取り組んでいく。 博士論文執筆にあたっては、先行研究批判もこれに合わせて組みなおす必要があるため、先行研究の調査も改めて整理していきたい。
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Research Products
(2 results)