2016 Fiscal Year Annual Research Report
産業遺産の観光資源としての活用に見るモダニティの変容と真正性の構築に関する研究
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15J01283
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
平井 健文 北海道大学, 国際広報メディア・観光学院, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 産業遺産 / 文化遺産 / 観光資源 / 真正性 / サハリン / 炭鉱・鉱山 / heritagization / モダニティ |
Outline of Annual Research Achievements |
補助予定期間の2年目となる平成28年度は、前年度の調査結果を踏まえた研究成果の発表と、国内の事例研究に注力した。前者については2編の学術論文を発表することができ、後者については参与観察も含む現地調査を継続的に実施した。後者の成果は平成29年度に複数の学会で発表するほか、論文投稿の準備を進めている。 まず、前年度の調査結果を踏まえて、産業遺産の文化的価値の価値構築プロセスと、現代におけるその保全活用の形態について一般化を図り、観光学術学会と産業考古学会のそれぞれの学会誌で学術論文を発表した。これらは本研究全体の基礎研究としての位置づけをもつ。 事例研究については、前年度にサハリンにおける調査を大幅に前倒しで実施することができたため、平成28年度はもう1つの対象地である北海道の石狩炭田跡と、兵庫県の生野鉱山跡の事例研究に重点的に取り組んだ。石狩は4回、兵庫は3回の現地調査(インタビュー調査・参与観察)を実施している。これらの調査の狙いは、地域社会において産業遺産の保全を担う主体の多様性を明らかにすることにある。調査の結果を受けて、それぞれの保全の方法論を真正性と集合的記憶の観点から整理するとともに、観光を通した主体間の協働の可能性について検討している。 サハリンにおける調査研究の成果については、平成28年度に日本社会学会(11月)およびフィンランドで開催された国際学会(3月)でそれぞれ発表した。石狩、生野における調査研究の結果については、平成29年度に地域社会学会(5月)、環境社会学会(6月)などで口頭発表を行うほか、同年度中に論文としても投稿することを予定している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成28年度の計画として前年度に挙げていた項目については、おおむね達成することができた。まず、これまでの研究成果を2編の論文として刊行することができた。サハリンの製紙工場跡の事例研究の成果も日本社会学会大会や国際学会で発表する機会を得た。先の計画に従って、平成28年度からは本格的に石狩、生野における調査を開始したが、参与観察も含む現地調査を継続的に実施し、その結果は平成29年度に複数の学会発表で公開する目途が立っているほか、論文投稿の準備も進めている。その過程において、ヘリテージ・スタディーズや観光学、社会学などの領域横断的な理論研究も並行して進めることができた。 ただし、サハリンの製紙工場跡の保全をめぐる最新の動向のフォローアップや、日本への永住国者に対する聞き取り調査が不充分であったため、この点は次年度の研究計画に持ち越している。 総じて、本研究全体の基盤となる成果を発表し、事例研究もほぼ予定どおりに進行できたため、おおむね順調に進展していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
次年度は補助予定期間の最終年度となるため、本研究全体の目的に立ち返りつつ、以下の3点に注力する。 第1に、石狩、生野における調査研究を進展させる。従前の研究では捨象されてきた地域社会内部の多様性に目を向けつつ、産業遺産保全に関与する多様な主体が、いかなる真正性を産業遺産に見出すのか、その社会的な背景と合わせて調査していく。 第2に、サハリンにおける調査研究を改めて実施する。現地の公文書館の協力を得て資料調査を実施するほか、サハリンの関係者と、日本への永住国者への聞き取り調査を行い、日本とロシアの二国間の境界にある産業遺産に見出される真正性と、その準拠枠について考察する。 第3に、理論研究を深化させる。モダニティの変容のあり方を考察するという本研究の狙いに立ち返り、本研究を理論社会学の中に位置づけるとともに、歴史社会学や地域社会学との接合の可能性について、事例研究の成果を踏まえて検討する。
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Research Products
(6 results)