2015 Fiscal Year Annual Research Report
日独厳律シトー会における修道院手話「手まね」の研究―社会言語学からのアプローチ―
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15J01302
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Research Institution | University of Tsukuba |
Principal Investigator |
柴田 香奈子 筑波大学, 人文社会科学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 修道院手話 / 手まね / フィールドワーク |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、厳律シトー修道会で伝承されてきた修道院手話「手まね」を対象とした社会言語学的研究である。 研究目的は次の2点である。1.修道院での実地調査に基づき、修道士たちの序列の違いにも注目しながら、一般社会から離れて存在している修道院の内的な社会構造と「手まね」表現との関係性を考察。2.修道院手話「手まね」と手話言語学の特徴を比較検討し、「手まね」表現の特殊性および個別的特徴を明らかにする。また「手まね」の語彙をデータベース化し、消えゆく言語と考えられる修道院手話「手まね」を保存する。 平成27年度に行った研究は、以下の5つである。1、これまでの研究成果を用いて、『日本手話学会』2015年度 第2回手話学セミナーで発表を行った(2015年6月)。報告者が蓄積してきた「手まね」表現の映像資料から観察された命令文、疑問文、受身表現などについて言語学的な視点から分析した。2、平成27年8月~10月、修道院の内的な社会構造と「手まね」の伝承を観察・検討する目的でドイツの修道院においてフィールド調査を実施。序列の異なる修道士から聞き書きを行った。3、「手まね」による発話を撮影する目的で、オランダの大修道院(調査を行っているドイツ修道院の母院)において調査を実施。研究目的に関わる重要なデータを整理した。4、「国立民族学博物館」平成27年度みんぱく若手研究者奨励セミナーに参加し、修道院内における「手まね」の伝承について、人類学的に検討を行い研究成果として発表した。5、報告者が撮影した「手まね」表現を順次、語彙リストとしてデータベース化する作業を行った。肖像権等の問題も考慮して、写真・映像資料を一部イラストに置き換える作業を進めた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成27年度は、8月~10月にドイツとオランダの修道院において修道士への聞き取りと「手まね」の発話の調査をほぼ予定通り実施し、映像記録を収集できた。現在、その資料を整理・分析中であり、ほぼ順調に進行している。同年度11~12月にドイツを拠点に近隣諸国で資料収集と現地調査を予定していたが、11月13日のパリ同時多発テロの影響で交通機関が大幅に乱れ、フランス国境付近の治安も悪化し十分な調査が行い得なかった。予定していた調査の一部は、平成28年度に実施する事とする。 「手まね」の語彙に関するデータベース化については、順調に進捗しており、特に本研究課題にとって重要な資料となる「手まね」表現の文レベルのデータも記録・整理することができた。平成28年度には、一定の完成を目指して更に作業を進める予定である。 平成27年度は、テロという予期せぬ事態の影響で調査に遅れが出たものの、国内のセミナーや研究会において、これまでの研究成果を何度か発表することができた。現在、これらの成果をまとめた投稿論文を執筆中であり、本研究課題はおおむね順調に進捗していると評価できる。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、各種セミナーや研究会において「手まね」の発話に見られる特徴的な命令、疑問、受身表現について言語学的に考察して発表を行った。平成28年度は、まだ分析データとして十分ではない「手まね」の発話に観察される言語的特徴に関して、ドイツとその近隣諸国において現地調査を実施し撮影・記録を行う事とする。特に平成27年度、オランダの修道院での調査において重要なデータを収集できた。本年度はこのデータについて具体的な分析を進める為にオランダにおいて予備調査を行う予定である。特に本年度は、調査データの分析に加えて、手話言語学研究の蓄積された研究成果と比較させながら考察を進め、言語学関係の学会での発表を予定。ドイツの修道院では、インフォーマントが90歳を超えていることを十分に考慮し、無理のない範囲で調査を行うこととする。 平成28年度は、「手まね」表現と修道院内の異なる身分や立場の関係性について、「手まね」の伝承・継承の過程にも注目しながら更に聞き取りを実施し、社会言語学的視点から考察を進める、投稿論文としてまとめる。全ての調査は、本修道会が一般社会と離れて存在しているという宗教的な特性に最大限の配慮をした上で行い、データの取扱いには細心の注意を払う。また、各調査地が国境付近に位置しているため、現地に渡航・滞在する際には、最新の治安情勢等の情報を入手し、危機管理意識を高めるよう努める。 これまでの映像データの整理については、動詞・形容詞・名詞を中心として更に、データベース化と整理を行い、現況資料と比較する事によって語彙リストの精度を高めていく。 平成28年度は、現時点での研究成果と調査資料を整理し、博士論文としてまとめる事とする。
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Remarks |
(1)平成27年度みんぱく若手研究者奨励セミナー「伝承と身体をめぐる文化人類学」(2015年11月11日~11月12日、国立民族学博物館)で行った研究発表「厳律シトー修道会における修道院手話<手まね>の伝承」により、第7回みんぱく若手セミナー賞を受賞。
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