2015 Fiscal Year Annual Research Report
戦後広島復興と浜井信三――「ヒロシマ」とナショナリズムをめぐる思想史的研究――
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15J01562
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
西井 麻里奈 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 濱井信三 / 原爆死没者慰霊碑 / 戦災復興 / 平和記念都市 / 軍都 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は、広島の戦災復興と戦争の記憶に伴うナショナリズムとの関係について、濱井信三の政治実践を通じて明らかにする作業を、これまでの研究の継続として行った。濱井は戦後広島における最初の公選市長であり、一期を除いて計四期広島市長をつとめた戦災復興の中心的人物である。今日戦災復興とその意義・課題を思想史的に問い直す上で、重要な人物と言える。今年度は復興計画における慰霊空間の形成と濱井信三との関係を検証した。そこでは原爆死没者慰霊碑の建立プロセスと復興のなかでの犠牲者の遺骨の処遇に注目した。成果は海外で口頭報告し、論文化して『待兼山論叢』に掲載された。
また、それと並行し、1949年の広島平和記念都市建設法制定と逆コースとの関係、その中での濱井信三の位置を、行政やメディアの資料を通じて明らかにすることに取り組んだ。広島は朝鮮戦争反戦運動の一つの重要な拠点であり、そのことが占領下での戦災復興や公安政策の強化と実質的にどう関係していたのか、あるいはいかなる同時代的な時空間が立ち上がっていたのかを明らかにすることは、広島復興のコンテクストとして重要である。以上のことについて特に1949~1950年の「平和」の語りに注目する形で検討し、研究経過の一部を口頭発表した。
また、濱井信三個人の経歴・思想・発言などについて、戦前・戦中・戦後の連続性の視点から明らかにするため、聞き取り調査を行うとともに、濱井の学生時代に遡り東大法学部在籍中の濱井に関係する資料調査を行った。大学卒業後、広島市に戻ってからの経歴については戦時中の広島商工会議所に関係する諸資料から明らかになりつつあり、その成果は戦時と「復興」との連続性を考える上で重要である。戦中の工業港建設計画と戦後復興との関係を軸とした考察を来年度前半に論文にまとめ、発表する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は論文発表と口頭発表を行ない、主要なテーマについての一端のまとめを提示することができた。執筆中の論文を含め、およそ戦中~1950年代前半までの状況を確認しつつあり、次年度の足がかりを築くことができたと考える。また、論文にまとめることを通じて新たな課題を発見し取り組むこともでき、次年度に繋がる基礎となると考える。故に、概ね順調と判断した。他方で濱井の個人史に関しては、特に運動体との関係が十分に明らかにできていない点もあり、課題が残されたと考える。
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Strategy for Future Research Activity |
今後も広島での資料調査を継続しつつ、本年度課題として残された濱井の個人史や人的関係性の検討を継続する。同時に、次年度は検討する年代を1950年代後半から1970年代に移行し、既に入手した資料の検討、および新しい資料調査を行っていく。
その際、土地区画整理事業や不法占拠住宅立ち退き事業など、復興事業の具体層を通じて「復興」と戦争の記憶との関係を明らかにしていく。また、研究計画では次年度に1959年の広島のルポルタージュを執筆したロベルト・ユンクの著作を通じて、そこで描かれる復興の問題に注目していくこと、そのために海外での原資料調査を行うとしたが、これは日本での資料調査が可能となったため、引き続き広島でのフィールドワークと資料調査を中心に研究を進めていく。
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