2015 Fiscal Year Annual Research Report
ロシア演劇学の構築:1920-30年代ロシア演劇におけるリアリズム概念の考察
Project/Area Number |
15J01589
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
伊藤 愉 大阪大学, 文学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | ロシア演劇 / 演劇学 / メイエルホリド / ロシア・アヴァンギャルド / リアリズム |
Outline of Annual Research Achievements |
平成27年度は、5月25日から6月18日に行ったモスクワ現地調査(ロシア国立文学芸術文書館、レーニン図書館等)における資料収集と資料分析を中心に研究を行った。渉猟した資料をもとに、1920年代に各種媒体で交わされた「観客」という概念を巡る論争と、メイエルホリド劇場における観客調査の実態を比較、考察し、日本演劇学会にて学会報告、『言語社会10』にて論文発表を行った。 また、国際中欧・東欧研究協議会(ICCEES)にて、ロシアより研究者を二名を招いてパネルを組み、1920年代のロシア演劇・文化における「音響」についての報告をそれぞれ行った。報告者は、「Sounds of Russian Theatre in the 1920-30s」と題した報告を行い、演出家イーゴリ・テレンチエフの演出作品を中心に、演劇において役者の言葉(セリフ)が音になる契機を分析した。 さらに『演劇学論集61』において、メイエルホリド劇場で行われた上演あるいは演出行為を「記録する」手法を巡る当時の議論および実践を明らかにした。彼らの関心は、舞台上にとどまらず、上演時の「観客反応」までも視野に含めたものであり、「記録する」とは、その後の「再現」を目指すものでありながら、同時に上演の「一回性/ライブ性」をより強調することであったことを論じた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
平成27年度は、基本的にモスクワで資料収集を行った。これは、これまでの報告者の研究活動(ロシア人演出家フセヴォロド・メイエルホリドの研究)から本研究課題への接続を図ったためである。ここからモスクワでの演劇研究、主に国立芸術学アカデミー(通称ガフン)の活動を考察することに比重が置かれた。ただしこれは、「ロシア演劇学」というテーマに対して、やや遠回りのアプローチとなったことは否めない。ロシア演劇学が創設されたレニングラード芸術史研究所の活動を明らかにするために、今後はペテルブルグでの資料収集に本格的に着手する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
研究実績の概要で述べた20世紀前半のライブ性を強調する演劇は、同時代にドイツから輸入された「演劇学」と密接に関わるものである。ここから研究題目にもある、1920-30年代の「リアリズム」概念が、「演劇学」において「代理表象」としてのリアリズムではなく、上演形式としてのリアリズムとして論じられていく過程を今後考察していく。1920-30年代の「リアリズム」概念は、同時代には「古典作品(クラシック)」との関係が強調されていた。一方、グヴォズジェフらロシア演劇学者たちは、それに対して「伝統主義(トラディショニズム)」を主張する。ここで彼らが使う「伝統」とは、文学作品としての「古典的伝統」ではなく、民衆演劇などを代表とする「上演形式として伝統」である。1920年代に形成され、1930年代の社会主義リアリズムの言説基盤となった「リアリズム」概念を、20年代において相対化しようとしていたグヴォズジェフらの活動を考察し、論文として発表する。
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Research Products
(7 results)