2015 Fiscal Year Annual Research Report
伝統的建築物の力学性能解明に向けた木材横圧縮時のひずみ分布および弾塑性挙動の解析
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15J01788
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
小川 敬多 名古屋大学, 生命農学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 木材 / 横圧縮挙動 / ビデオ伸び測定法 |
Outline of Annual Research Achievements |
我が国の伝統的な木造建築物は,構造力学的な面で十分な把握に至っておらず,この解明が求められている.伝統木造建築物の重要な耐力要素の一つが接合部である.これらの接合部は一般的に仕口同士の噛み合わさることにより耐力を発現するため,木材の横圧縮挙動が主な耐力発現要因となり,接合部の力学解析に向けては,この挙動を熟知する必要がある. 木材の横圧縮試験を実施すると,負荷方向にひずみの分布が見られる.試験体の上部(載荷板付近)でひずみが集中しており,このことは,実際に横圧縮試験を実施した経験のある者にとっては知られているものの,これを反映した物性評価方法は未だ無い.接合部の力学性能をより正確に評価するためには,このような詳細な変形挙動を把握する必要があると考え,これを目的に研究を行なった. 木材小試験体を用いて横圧縮試験を実施した.ひずみの測定には,一般的に行なわれている測定法(ひずみゲージの貼付,クロスヘッド間変位の測定)に加えて,ビデオ伸び測定法(試験体表面に印をつけ,その印の移動を画像解析的に測定する方法)を試みた. ビデオ伸び測定法による負荷方向のひずみ分布の測定結果から,横圧縮を受ける木材は,はじめに,特別弱い箇所が優先的に変形するものの,それが終わると(あるいは,それが無いと),試験体上部から変形することが明らかとなった.また,部分的なひずみが概ね0.4に達すると,増加が緩やかになり,それと同時に,別の箇所で部分的なひずみが増加した.続いて,負荷方向のひずみ分布のモデル化(関数近似化)を試みた.これは,ひずみ分布をS字型の曲線により近似したものである.このモデルに基づいて描写した応力-ひずみ関係は,クロスヘッド間変位測定時のそれとよく一致した.すなわち,本研究で提案したモデルは妥当性があるものと考えられる.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
伝統的な木造建築物に用いられる接合部のより正確な力学解析に向けて,その基礎知見となりうる,木材横圧縮時の負荷方向のひずみ分布を測定した.また,本研究では実験的な測定のみならず,このひずみ分布に対して関数を用いたモデル化を目指しており,これにより,今後の接合部の力学解析に反映させることを目論んでいる. スギとヒノキの小試験体を用いて,横圧縮試験を実施した.この時,試験体表面に印(黒点)を複数つけた.横圧縮試験の様子はビデオカメラを録画し,圧縮の進行に伴う黒点間の距離を測定した(ビデオ伸び測定法).これにより,黒点間の部分的な領域におけるひずみを測定した.ビデオ伸び測定法の結果では,特別弱い箇所が優先的に変形するものの,それが終わると(あるいは,それが無いと),試験体上部から変形することが明らかとなった.また,部分的なひずみが概ね0.4に達すると,増加が緩やかになり,それと同時に,別の箇所で部分的なひずみが増加する様子が明らかとなった. 試験体高さを縦軸に,部分的なひずみを横軸にグラフを描くと,S字の曲線が現れる.本研究では,これを関数(正規分布の累積頻度曲線)で近似できると考え,モデル化した.また,この近似の妥当性の検証も試みた.S字の関数に基づいて,木材横圧縮時に発現される応力-ひずみ関係を計算した.この計算結果は,試験時に得られたそれと概ね一致したことから,おおよその妥当性がうかがえる.なお,このモデル化は当初の27年度の研究計画で目的としていたものであった. しかしながら,このモデル化(関数による近似)は,グラフ上の一致から得られたものにすぎず,必ずしも力学的な根拠をもって導かれたものではない.今後は,現在の案をベースとしながら,力学的根拠を付随させ,客観性の高いモデルに発展させる必要がある.
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Strategy for Future Research Activity |
上記(【現在までの進捗状況】)で示したとおり,現在のモデルでは構築過程における力学的な根拠が薄く,そのため,十分な客観性があるとは言えない.したがって今後,このモデルを発展させ,客観性を高めることが必要と考えている.今年度のはじめには,これに従事したいと考えている. これが概ねの解決に至った後は,このモデルの利便性を向上させる研究に従事することを予定している.現状のモデルでは,横圧縮試験により部分的なひずみを解析し,それを表現するためのパラメータ値を決定している.しかしながら,横圧縮時のひずみ分布の測定には,多大な手間(ビデオ測定や画像解析など)を要するため,一般的な物性特性方法としては受け入れ難いと考えられる.そこで,今後は,このモデルのパラメータ値を簡易に推定できる手法を構築したい.例えば,これまで一般的に測定されている,横圧縮時の応力-ひずみ関係からこれらのパラメータ値を得られる手法を想定しており,これが可能になったならば,本研究で構築したモデルがより多くの研究に活用されるであろうと考えている. 加えて,当初予定していた通り,このひずみ分布を接合部の力学解析に適用することも考えている.先述(【研究実績の概要】)の通り,このひずみ分布は,例えば伝統木造建築中の接合部をより正確に力学解析することを目指したものであり,その適用例を提示することを目標にしている. さらに今年度では,これらに関わる研究成果を,学術発表会や学会誌投稿などにより,広く報告したいと考えている.また,研究成果の報告とともに,他機関の研究者らとも意見交換をすることで,研究内容をより発展させていきたいと考えている.
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