2015 Fiscal Year Annual Research Report
未利用水産資源の複合利用による抗炎症機能食品の創出技術の開発
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15J02069
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
西澤 瑞穂 北海道大学, 水産科学院, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | 魚肉タンパク質 / メイラード反応 / 糖修飾 / 抗炎症機能 / ミオシン / 機能ペプチド / アルギン酸オリゴ糖 |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は,海藻由来アルギン酸オリゴ糖 (AO) を廃棄魚肉タンパク質に結合させることで,抗炎症機能を付与することに成功した。本年度は,資源の新規利用と人々の健康に貢献する食品の創出技術の確立のため,以下の2点について検討した。 1.機能ペプチドの同定:これまでの分析で得た候補配列をもとに合成ペプチドを作製し,その抗炎症機能を細胞実験で評価した。その結果,ミオシン重鎖由来新規抗炎症ペプチドを1種同定した。このペプチドは,TNF-αとIL-6の産生を抑制したが,一酸化窒素の産生を抑制しなかった。次に,等電点電気泳動を用いてAO修飾魚肉ペプチド (Meat-AO peptide) を分画し,AO結合ペプチドの分布を調べた。その結果,強い抗炎症機能をもつpI0.5-5.0の酸性画分のうち,AO結合ペプチドはpI0.5-4.0に分布していた。以上の成果は,単一の機能ペプチドの効果は限定的であり,主要な機能成分は「AOが結合した酸性ペプチド群」であることを示唆している。次年度は,酸性ペプチド群に焦点を当て,その構造と抗炎症機能の関係を詳細に検討する。 2.疾患に対する効果:慢性炎症モデルの一つであるマスタード浮腫誘発ラットにMeat-AO peptideを投与し,浮腫の増悪に及ぼす影響を検討したところ,Meat-AO peptideは顕著な浮腫増悪抑制効果を示さなかった。この理由として,代謝による機能ペプチドの消失と,投与量が慢性炎症に対する有効量まで達していなかった可能性が考えられる。しかし,Meat-AO peptideは急性炎症であるカラゲニン浮腫の増悪を有意に抑制したことから,生体においても抗炎症機能を発揮することは明らかである。今後はカラゲニン浮腫に着目し,継続投与による体質改善効果や生体における機能メカニズムを調査し,抗炎症食品としての効果をより詳細に明らかにしたい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は,Meat-AO peptide中に含まれている機能ペプチドの同定をおこない,ミオシン重鎖由来の新規抗炎症ペプチドを1種類同定することができた。その他の機能ペプチドの同定には至らなかったが,この過程でAO修飾魚肉タンパク質の抗炎症機能の発現には,AOの結合と酸性のペプチド群が深く関与していることを明らかにすることができた。この成果は,作用実体を個別の成分ではなく「群」としてとらえる重要性を示唆するものであり,メイラード反応による抗炎症機能の付与メカニズムの解明に大きな影響を与える知見を得ることができた。 また,疾患予防効果に関しては,重度炎症に対する抗炎症効果は認められず,軽度の急性炎症に対して顕著な抗炎症効果を有することが明らかとなった。当初期待した効果が得られなかったものの,今後,AO修飾魚肉タンパク質を抗炎症食品として利用する上での研究計画の立案が明らかとなったことから,全体の研究計画への影響は軽微であると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の推進方策について,当初の計画通り,機能ペプチドの同定と抗炎症機能付与技術の応用範囲の2点について実施予定である。 1.機能ペプチド同定:今年度の検討から,単一の機能ペプチドの効果は限定的であり,主要な機能成分は「AOが結合した酸性ペプチド群」であることが示唆された。次年度は,酸性ペプチド群に焦点を当て,その構造と抗炎症機能の関係を詳細に検討する。具体的には,魚肉タンパク質から酸性ペプチドを調製し,これにAO修飾を行う。得られたAO修飾酸性ペプチドについて抗炎症機能を分析することによって,「AOの結合」や「酸性」という性質と抗炎症機能の関係について検討を行う。 2.抗炎症機能付与技術の応用範囲::魚肉タンパク質と海藻由来オリゴ糖以外の組合せにおいても抗炎症機能の付与が可能かを検討する。具体的には,修飾糖とタンパク質を変えて修飾段階が異なる糖修飾タンパク質を複数調製する。現在,3種類のタンパク質と5種類の糖類を用いて修飾段階が異なる試料を合計約50種類調製予定である。得られた糖修飾タンパク質を酵素消化し,その抗炎症機能を細胞実験で調べる。修飾糖,タンパク質や修飾度合いが抗炎症機能に及ぼす影響を調べ,抗炎症機能付与の条件や付与メカニズムを明らかにする。
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Research Products
(4 results)