2015 Fiscal Year Annual Research Report
企業の研究開発活動に基づく経済成長理論での賃金格差および特許政策の分析
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15J03874
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
岸 慶一 大阪大学, 経済学研究科, 特別研究員(DC2)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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Keywords | イノベーション / 経済成長 / 知的財産権保護 / 生産性分布 |
Outline of Annual Research Achievements |
2015年度、本研究では、進歩性要件がイノベーションの量と質に与える影響を理論的に分析した。ある発明が特許権を取得するためには特許庁の定めた進歩性要件を満たす必要がある。進歩性を満たすためには、ある発明が先行技術と比べて十分に優れていなければならない。経済学的に言い換えると、進歩性とは、特許取得のために必要な財・サービスの最小品質改善幅のことである。つまり、企業の研究開発(R&D)活動による既存の財・サービスの品質改善の幅が、特許庁の設定した最小品質改善幅(進歩性)を超える技術進歩に対してのみ特許が付与される。以下では進歩性のことを最小品質改善幅と呼ぶこととする。本研究では、最小品質改善幅が総R&D投資量および特許を取得した技術の平均品質改善幅に与える影響を分析した。 本研究により、最小品質改善幅と総R&D投資量の間に非単調もしくは負の関係があることが示された。さらに、最小品質改善幅の引き上げると、長期的に平均品質改善幅を引き下げるという逆説的な結論が導かれた。つまり、より優れた技術に対して特許を付与するようなルールに変更すると、平均的に品質の劣った技術が特許を取得し始める。 このような最小品質改善幅と平均品質改善幅の関係は、Federal Trade Commission (FTC) および National Academy of Sciences (NAS) の期待する政策効果と異なる。FTCと NASは、アメリカの特許の品質向上のために、最小品質改善幅の上昇を提案していた。そして実際に、2007年のアメリカ最高裁判決により、アメリカの最小品質改善幅が引き上げられることになった。しかし本研究によると、最小品質改善幅引き上げが平均品質改善幅を下落させるため、FTC と NAS の期待通りに最小品質改善幅の上昇がアメリカの特許品質を向上させるとは限らない。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
1.当初の計画では特許政策に関する理論分析を解析的に行うことが困難であると予想していたが、実際にはすべての分析を解析的に行うことができた。 2.当初の計画では特許政策に関する論文を2015年度に査読付学術雑誌に投稿することが目標であったが、実際には2015年度中に査読付学術雑誌に掲載が決まった。
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Strategy for Future Research Activity |
当初の研究計画では、2016年度は賃金格差の研究に集中する予定でいた。しかし、2015年度に実施した特許政策に関する研究における企業の生産性(技術水準)分布が、実証研究で支持できない特性を持っていることが判明した。したがって、2016年度では、賃金格差に関する研究だけでなく、生産性分布が現実経済と整合的となる理論モデルについて研究を行う。
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Research Products
(3 results)