2016 Fiscal Year Annual Research Report
Project/Area Number |
15J04068
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Research Institution | Tokyo Metropolitan University |
Principal Investigator |
佐藤 暁 首都大学東京, 人文科学研究科, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 意味理論 / デイヴィドソン / ダメット / ウィトゲンシュタイン / 理解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、言語哲学者D.デイヴィドソンとM.ダメットによって提案、部分的に構築された意味理論を、理解の理論として再構成し、発展させることである。今年度は特に、現代哲学における理解概念の分析の系譜と動向全体の中に、意味理論探究を位置づけるという作業に従事した。 本研究が主題とする意味での理解概念の、現代におけるもっとも一般的な探究は、ブラッドリーの無限後退と呼ばれる伝統的な問題に対する、言語哲学による取り組みである。そこで本研究はまず、理解概念の探究としてのブラッドリーの無限後退、という問題設定の明確化と概括という作業に従事した。 次に、ブラッドリーの無限後退への応答としてデイヴィドソンの意味理論を位置づけ、両者の関係という観点から、デイヴィドソンの理論をタルスキの真理論がいかに基礎づけているのか、を分析した。 一方、ウィトゲンシュタインは、ブラッドリーの無限後退に対するこれとは全く異なる発想の回答として、像理論を生み出した。像は、語ると示す、可能性、シンボル、アスペクト、規則遵守といった重要な諸概念と連関し、理解の概念を徹底的に記号の使用という「行為」の観点から分析するものである。こうした基本的な着想をほぼそのまま受け入れ、より精緻に理論化、体系化したのが、ダメットの意味理論であることを明らかにした。さらに、証明論における証明概念の分析を、ダメットを経由することで、ウィトゲンシュタインが理解概念の解明のために導入した使用の概念の分析とみなし、それによって理解の理論としての哲学的含意を豊富に汲み出せるという洞察を得た。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の研究目標は、意味理論の代表的な二人の当事者のうち、ダメットの意味理論について、理解の理論としての特徴づけを行い、具体的な理解の理論の構成という最終的な目標に対して事前の準備にあたる作業を終えることであった。本年度はこうした試みを、当初意図していたものよりさらに一般化し、より広い視野に基づいて遂行すべく、現代哲学における理解概念の分析という隠れた潮流の存在を明らかにし、ダメット、及び前年度の研究において特徴づけた理解の理論としてデイヴィドソンの理論をこうした潮流のなかに位置づけることができた。 また、本研究の最終的な目標である理解の理論の構築においてもっとも重要な課題となるのが、一般的には対立的なものと位置づけられているデイヴィドソンとダメットの意味理論を、共通の目標を果たす相補的な理論としてひとつに統合することである。本年度は、この課題を果たすにあたって予想される困難を取り除くために、特にウィトゲンシュタインの像理論を介することで両者の理論をブラッドリーの無限後退という共通の課題への取り組みとして解釈しうることを明らかにした。 さらに、像理論を背景にダメットの意味理論を解釈することで、現代の証明論にまつわる哲学的議論を取り込みうることを明らかにした。それによって、デイヴィドソンの理論の背景にあるタルスキ真理論、およびモデル論的な伝統と、こうした証明論的伝統のふたつの対比及び共通点をめぐる議論のなかに、ふたつの意味理論の総合という本研究の課題を位置づける道筋をつけることができた。
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Strategy for Future Research Activity |
昨年度の研究でデイヴィドソンの意味理論、本年度の研究でダメットの意味理論について、ブラッドリーの無限後退への言語哲学的な取り組みという観点に基づくことで、両者を理解の理論として統一的に解釈するために必要な論証や概念を考案し、また、様々な洞察を得た。来年度はこうした成果に基づき、具体的に理解の理論としての意味理論の構築作業に取り組む。 まず、意味理論、言語哲学、さらには哲学史に遡って、理解の哲学的解明とはなんであるか、その課題の内容と分析の文脈を概括し、明確化する。そのうえで、デイヴィドソンとダメットの意味理論が、それぞれここで明らかにされた意味での理解の概念についての、一人称的な理論と、三人称的な理論として特徴づけられることを示す。同じものについての人称的な相違として両者を把握することで、二つの理論を統合することが実際に可能になる。それらの相違は観点の相違であって、不整合なふたつの対立する立場であると考える必要がなくなるからである。 また、両者を統合する理解の理論として、具体的に様相論理の意味論を用いる。こうした意味論は、デイヴィドソンによる一人称的な理論を具体的に与えるタルスキの真理論から生まれたモデル論的な伝統に基づきつつ、言語使用、言語能力の形式的モデルを与えうるという意味で、ウィトゲンシュタイン、ダメットの哲学的洞察の理論化としてのポテンシャルを備えているからである。
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