2015 Fiscal Year Annual Research Report
移植効率の向上を目指した精子幹細胞の宿主内ダイナミクスの解明
Project/Area Number |
15J05243
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Research Institution | National Institute for Basic Biology |
Principal Investigator |
中村 隼明 基礎生物学研究所, 生殖細胞研究部門, 特別研究員(PD)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | 精子幹細胞 / マウス / 精細管内移植 / 幹細胞ダイナミクス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、マウスをモデル動物に用いて、精子幹細胞の宿主内ダイナミクスを解明し、その知見に基づいて現在非常に低い精子幹細胞の移植効率を実用可能なレベルまで向上させることである。 宿主マウス精細管内に移植した精子幹細胞のクローンの運命を一細胞の分解能で定量的に解析した。その結果、GFRα1標識細胞とNgn3標識細胞はいずれも移植後2日以内に基底膜上に到達し、移植2ヶ月以降に完全な精子形成のコロニーを形成した。移植後に基底膜上に到達する効率はGFRα1標識細胞とNgn3標識細胞でいずれも1/8であったが、コロニーを形成する効率はNgn3標識細胞と比較してGFRα1標識細胞で約3倍高いことが明らかになった(1/71 vs 1/25)。また、GFRα1標識細胞のクローン一つ一つの運命は非常に多様であるが、クローンあたりのGFRα1+細胞数は1ヶ月後まで指数関数的に増加し、その後一定になることを見出した。この結果は、GFRα1標識細胞は初めのうちは自己複製の頻度が高いが、次第に分化の頻度が増加し、1ヵ月後には両者のバランスが均衡して定常状態になることを示唆する。一方、Ngn3標識細胞の21.1%が移植2日以内にGFRα1+ステートに脱分化してGFRα1標識細胞と同様に振舞うのに対し、脱分化しなかった標識細胞は生着後すぐに分化することを見出した。 これらの結果から、精子幹細胞の移植効率が低い主な原因は、基底膜上に到達した精子幹細胞がコロニーを形成するステップであることを見出した(1/8 vs 1/32)。これは、移植では限られた数の精子幹細胞のみが基底膜上に到達してそれらは全てコロニーを作る、という定説を覆す興味深い発見である。また、基底膜上に到達した精子幹細胞は細胞死と分化によって消失することが明らかになった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの精子幹細胞研究の多くが移植後にコロニーを形成する活性に基づいているにも関わらず、コロニー形成の過程は依然ブラックボックスであった。ここに初めて定量的にメスを入れた本研究は、研究領域にとって極めて価値が高いと考えられる。意外なことに、コロニーを形成できる能力を持つ精子幹細胞の多くが、一旦生着した後に細胞死を起こしたり、分化することでコロニー形成に至らないことが明らかとなってきた。本年度には、本格的に数理統計解析を行うが、幹細胞ダイナミクスの全貌が解明されることが期待される。さらに、この知見は精細管内移植の効率を飛躍的に改善する技術開発につながると期待される。 これらの研究成果に基づいて、最終的な目標に向けておおむね順調に研究が進展していると判断した。
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Strategy for Future Research Activity |
本年度は、宿主マウス精細管内に移植した精子幹細胞のダイナミクスの数理モデルを構築する。このため、ライブイメージング法を用いて、移植したGFRα1陽性細胞の宿主内における3つの挙動(分裂、断片化、細胞死)の頻度やパターンを計測する。続いて、この計測によって得られた宿主内のGFRα1陽性細胞の挙動のパラメータを用いて数理モデルを構築する。昨年度の成果である移植後のクローン解析の結果をin silicoで予測できるか検証することでモデルの信頼性を検討するとともに、より的確に移植後の幹細胞の挙動を捉えた数理モデルを構築する。 平成28年度としては、数理モデルの予測を基盤として、精子幹細胞の移植効率を向上させる技術を開発する。数理モデルで用いたパラメータが変化すると予想される遺伝子改変マウスの精子幹細胞を移植する。そのクローン解析の結果をin silicoモデルによる予測と比較することで数理モデルを検証し、更に改良を進める。続いて、in silicoモデルにおいて、どの挙動のパラメータをどのように調節することで、精子幹細胞の移植効率を最も向上させることができるか予測する。この結果に基づき、精子幹細胞の懸濁液中に様々な分子を添加することで、in silicoモデルで予測した精子幹細胞の挙動のパラメータを変化させ、最終的な移植効率の向上を図る。 以上の研究により得られた結果を取り纏め、成果の発表を行う。
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Research Products
(3 results)