2015 Fiscal Year Annual Research Report
曲面のスケイン代数、ゴールドマン・リー代数および写像類群の相互関係の研究
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15J05288
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
辻 俊輔 東京大学, 数理科学研究科, 特別研究員(DC1)
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Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2018-03-31
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Keywords | スケイン代数 / 写像類群 / 有限型不変量 / カウフマン・ブラケット / HOMFLY-PT多項式 |
Outline of Annual Research Achievements |
結び目理論により定義されたスケイン関係式を曲面に拡張したスケイン代数を通して、2次元トポロジーと3次元トポロジーを結びつけることを目的として研究している。スケイン代数は、ゴールドマン・リー代数や基本群といった2次元トポロジーで重要な研究対象を深化させた概念とみなすことができ、さらにタイヒミュラー空間や曲面の基本群の表現空間とも大きく関わりがある。また、3次元トポロジーにおいては、スケイン代数はハンドルボディの結び目の研究で重要な役割をする。 特に、ジョーンズ多項式の計算に用いられるカウフマン・ブラケットを曲面に拡張したカウフマン・ブラケット・スケイン代数に興味を持っている。デーン・ツィストは、曲面の研究で中心的な役割をする写像類群を生成する元である。カウフマン・ブラケット・スケイン加群へのデーン・ツィストの作用をカウフマン・ブラケット・スケイン代数の作用で記述する公式は、河澄-久野、マシュヨ-テュラエフの研究で得られたゴールドマン・リー代数と基本群の研究のアナロジーとして得られた。この公式を使うことにより、ゴールドマン・リー代数と基本群の研究のアナロジーとして、2次元トポロジーの新しい研究ができた。また、このスケイン代数と写像類群の研究を通して3次元トポロジーに新たな考え方を導入することができた。 さらに、今後の研究において、HOMFLY-PT多項式を曲面に拡張したテュラエフ・スケイン代数を用いてカウフマン・ブラケット・スケイン代数の研究のアナロジーとなる研究をする予定である。ジョーンズ多項式を拡張したHOMFLY-PT多項式はより複雑になるがより絡み目の情報を持つので、テュラエフ・スケイン代数の研究を通してさらに多くの2次元トポロジーの情報と3次元トポロジーの情報が得られると期待している。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の研究の主な成果は、ある曲面のトレリ群から完備カウフマン・ブラケット・スケイン代数への埋め込みができたことである。トレリ群は曲面の写像類群の重要な部分群である。この研究成果は、次の二つの意味を持つ。一つ目は、写像類群に正規部分群からなる新しいフィルトレーションを入れることができたことである。二つ目は整数ホモロジー3-球面の不変量の構成ができたことである。以下これらを詳しく説明する。 一つ目について、トレリ群から完備カウフマン・ブラケット・スケイン代数への埋め込みは完備カウフマン・ブラケット・スケイン代数の自然なフィルトレーションにより、写像類群に自然なフィルトレーションを与える。このフィルトレーションにより、新しく第一ジョンソン準同型を得ることができた。第一ジョンソン準同型はトレリ群の基本群への作用の研究において重要な対象である。この第一ジョンソン準同型の核をジョンソン核と呼ぶ。第二ジョンソン準同型はジョンソン核からの写像である。カウフマン・ブラケット・スケイン代数への埋め込みにより第二ジョンソン準同型の類似の準同型を構成することできた。 二つ目について、トレリ群をある同値関係で割った集合が整数ホモロジー3-球面と一対一に対応することが知られている。この研究でトレリ群から完備カウフマン・ブラケット・スケイン代数への埋め込みとこの同値関係を用いて、整数ホモロジー3-球面の不変量を構成した。この不変量は(A+1)を変数とした級数の不変量である。(A+1)の係数はキャッソン不変量となる。この不変量が今までの級数を値にとる不変量と関係がつけば、新しくその不変量の計算方法が得られたことになる。また、今までの級数を値にとる不変量と全く異なることがわかれば、新たな不変量となる。どちらにしても曲面の研究と3次元多様体の研究に新しい概念を導入することができた。
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Strategy for Future Research Activity |
今後の研究の方針は次の2つである。 1つ目は、HOMFLY-PT多項式を曲面に拡張したテュラエフ・スケイン代数を用いてカウフマン・ブラケット・スケイン代数の研究のアナロジーとなる研究をすることである。カウフマン・ブラケット・スケイン代数において、この研究により大きく分けて次の3つの成果が得られた。一つ目はカウフマン・ブラケット・スケイン加群へのデーン・ツィストの作用をカウフマン・ブラケット・スケイン代数の作用で記述する公式を得たことである。二つ目はこの公式を用いて、ある曲面のトレリ群から完備カウフマン・ブラケット・スケイン代数への埋め込みができたことである。3つ目はこの埋め込みを用いて整係数ホモロジー球面の不変量を得たことである。1つ目の研究方針はこれらの研究成果のアナロジーとしてテュラエフ・スケイン代数を用いてより深化させることである。カウフマン・ブラケット・スケイン代数が1変数のスケイン関係式を用いて定義するのに対し、テュラエフ・スケイン代数は2変数のスケイン関係式を用いて定義される。これより、カウフマン・ブラケット・スケイン代数はテュラエフ・スケイン代数より深い情報を持つことが期待される。さらに、テュラエフ・スケイン代数は双代数の構造を持つことが知られている。テュラエフ・スケイン代数の双代数の構造はゴールドマン・リー代数のリー双代数の構造を量子化したものとみなせる。この双代数の構造を用いてカウフマン・ブラケット・スケイン代数とは異なる方法で曲面のゴールドマン・リー代数の研究を深化できると期待している。 2つ目は、カウフマン・ブラケット・スケイン代数を用いて構成した整係数ホモロジー3-球面の不変量を既存の不変量と比較することである。1次の係数はキャッソン不変量になることがわかっている。2次の係数について、既存の不変量、とくにLMO不変量またはWRT不変量と比較する。
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Research Products
(6 results)
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[Presentation] スケイン代数と写像類群2015
Author(s)
辻俊輔
Organizer
九大数理トポロジー金曜セミナー
Place of Presentation
九州大学伊都キャンパス(福岡県福岡市)
Year and Date
2015-12-04 – 2015-12-04
Invited
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