2015 Fiscal Year Annual Research Report
ヘミングウェイ作品におけるジェンダー・空間・身体表象分析―海外未発表原稿分析
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15J05327
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| Research Institution | Nagoya University |
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Principal Investigator |
古谷 裕美 名古屋大学, 国際言語文化研究科, 特別研究員(DC2)
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| Project Period (FY) |
2015-04-24 – 2017-03-31
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| Keywords | プリミティヴィズム / 近親相姦 / 性規範からの逸脱 / 人種越境願望 / ジェンダー越境願望 |
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| Outline of Annual Research Achievements |
研究目的はヘミングウェイ作品の未発表原稿に基づき、削除された箇所を特定・分析し、テクストの再読・再解釈を行うというものである。20世紀初頭、厳格な性倫理や道徳観念に基づいて、「異性愛規範、性倫理から逸脱する欲望」といったテーマがどのように意図的に原稿から削除されたかを明確化し、オリジナル原稿が内包していた秘められたテーマを読み解くことを試みる。
平成27年度は “The Last Good Country” のテクスト分析を行い、テクストの曖昧性や先行研究から導き出される問題点を指摘した。ヘミングウェイの遺作である本短編は、生前に発表された他のNick Adams Stories とは異なり、晩年のヘミングウェイ作品が内包する性規範からの逸脱というテーマを扱っており、「近親相姦願望」、「双子化現象」、「人種越境願望」、「ジェンダー越境願望」など様々な境界侵犯にまつわるテーマが描き出されている。これらの境界侵犯の欲望は、ネイティヴ・アメリカンに対するプリミティヴィズムと交差的に描き出されていると指摘できる。
分析内容に関しては、平成27年12月に第26会日本ヘミングウェイ協会全国大会で、研究発表を行った。タイトルは「ヘミングウェイの描く兄と妹－『最後の良き故郷』を中心に」であり、特に人種越境願望、近親相姦的欲望に焦点をあてて分析を進めた。本発表に関しては、平成28年夏にボストンのJFK図書館において未発表原稿調査を行い、主人公ニック・アダムズとその妹リトレスのセクシュアリティやジェンダーに着目しつつ、さらに分析を深める予定である。本研究はプリミティヴィズムと性表象という観点から、博士論文本論に組み込まれる予定である。
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| Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究課題はおおむね順調に進展している。本研究は博士論文で取り扱うヘミングウェイの未発表原稿分析に関連して、対象作品の詳細なテクスト分析を行い、テクストの内包する矛盾や曖昧性、先行研究から見逃されてきた問題点を指摘し、テクストに新たな解釈を導き出すことを目的としている。平成27年度は、平成28年度に行うJFK図書館での未発表原稿調査の事前調査を行い、“The Last Good Country” の詳細なテクスト分析を行った。平成27年度末に開催された第26回日本ヘミングウェイ協会全国大会で、分析結果を口頭発表し、フロアから様々な意見や見解を伺うことができた。口頭発表で得た見識を踏まえつつ、平成28年度はJFK図書館で未発表原稿調査を行い、「プリミティヴィズム」と「逸脱した性」という観点から“The Last Good Country” のさらなるテクスト分析を進める予定である。
また、平成28年度のJFK図書館での未発表原稿調査では、他の作品の分析も行う予定であり、“An Alpine Idyll”に関しては分析結果に基づいて、The Hemingway Society (U.S.A.) 主催の国際学会で研究発表を予定している。破損した女性の遺体と、男性の偏愛、去勢不安といった観点から分析を進め、これまでほとんど詳細に分析をされてこなかったテクストの再読を試みる。口頭発表後は、『中部アメリカ文学』（アメリカ文学会中部支部）に投稿予定である。本研究課題の進展は順調に進展しているとみなすことができる。
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| Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は、5月にボストンのJFK図書館でヘミングウェイの未発表原稿調査を行う予定である。調査対象となるのは、短編“The Last Good Country,”“In Another Country,”“An Alpine Idyll”と“A Farewell to Arms”の最終部である。キューバのヘミングウェイ博物館で所蔵されている数多くの未発表原稿や書簡の一部がJFK図書館にデジタル画像で寄贈され、2014年2月以降、処理を終えた資料から順次公開されつつある。短編“In Another Country”（女性の突然死をめぐる物語）のオリジナル原稿は新たに閲覧可能となったオリジナル原稿であるので詳細に分析を行う。
作品解釈の糸口となるような描写や、作者の隠された意図、さらに出版原稿では編集者によって削除された箇所を特定し、手書き原稿を解析し、必要箇所を直接パソコン入力する。（オリジナル原稿の複写やデジタル撮影は禁じられている）未発表原稿調査・研究に基づき、特に女性の身体表象に着目し、「損壊した女性の遺体」や「病と女性表象」といった観点から、テクストの再読・再解釈を試みる。博士論文ではヘミングウェイ作品における女性の身体表象研究を進めており、平成27年度と同様に、博士論文の一部に組み入れる形式で平成28年度の研究を進めていく。分析結果のうち、“An Alpine Idyll”については、“XVII Biennial International Hemingway Society Conference Oak Park, Illinois, 17-22 July 2016”にて口頭発表を行う予定である。
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